宿 命
覗き窓一つの暗い取調べ室。
十六歳の永田 譲がうなだれて居る。
憲司は暫く沈黙し、対座する。
机越しに譲を見詰めている憲司・・・。
憲司の取り調べが始まる。
憲司は優しく、
「・・・昨夜は眠れたか?」
黙り込む譲。
憲司は続ける。
「豊橋からよくこんな所まで来たな」
机の電球の灯りが譲の顔の半分を照らす。
憲司は静かに、
「譲、・・・オメーにはもう帰る場所は無くなってしまったな」
譲は机の一点を見詰めている。
憲司の眼が『刑事の眼』に変わって行く瞬間である。
譲を崖から突き落とすような口調で、
「父親はこの世には居ねえし、オメーを産んだ母親は遠い国に行っちまった。これからは独りぼっちで長げえ懲役に就くんだ」
譲は微動だにしない。
憲司が、
「オメーの立場と気持ちは分らねえ事はねえ。・・・しかし譲。それがオメーに与えられた『運命』じゃねえのか? なのにオメーはそれに逆らって・・・」
憲司の見ている譲の顔に、マコトと道子の顔が交差して来る。
「俺にもオメーと同じ歳の息子が居る。その息子はオマエと同じ混血児だ。事情が有って赤ん坊の時、ある人から貰って来た・・・」
憲司のその言葉に聞き耳を立てる譲。
「女房と二人で大切に育ててな・・・。ところが、女房が二週間前に死んじまった」
譲は真剣に聞いている。
「その息子が中学ん時、ちょとした事で俺の脚を包丁で刺しやがってな」
憲司はズボンの裾をたくし上げる。
譲は膝の傷を一瞥し憲司を見る。
憲司の鋭い刑事の眼が、「優しい父親」の目に変わって行く瞬間である。
たくし上げたズボンの裾を下ろしながら、
「どうした譲。オメーだけじゃねえんだ。我慢するんだよ。人間を生きて行くには我慢することも必要なんだ。・・・オメーはまだ若けえ。やり直しがきくかもしれねえ。懲役は長げえけれど、これから鉄格子の中でオメーの帰る道を探すんだな。そして、オメーがヤッた人達を一生かけて供養し、その家族に心から謝罪して行く。それがオメーの懲役のお勤めだ。いいか、・・・もしオメーが再びこんな惨めな罪を犯したら・・・俺はオメーを『死刑』にしてやるからな!」
譲の瞳から涙が溢れ出す。
続く




