刑事(父)の履歴
憲司は猪口に酒を注ぎ、一気に呑み干す。
そしてまた話しを続けた。
「・・・あれは戦争が終わって少しした頃だった。署から家までの帰り道。・・・夜もだいぶ更けていた。・・・オレは自転車でT街道のS(地名)って所まで来たんだ」
憲司は猪口にまた酒を注ぐ。
「・・・そしたら山から男が降りて来てな。こんな時間に山からなんてタヌキかキツネかと思った。・・・オレは酔っぱらってたから度胸が据わってた。で・・・、『おい、コラ!』ってやったんだ。その男はオレを見て一目散に逃げやがった。・・・オレは夢中で追いかけてトッ捕まえた」
憲司はまた猪口の酒をグイと呑む。
「・・・その晩はそこでヤローと一緒に寝て翌朝だ。俺はヤローの服を見てびっくりした。服が血だらけだ。・・・で、署までしっよぴいて、思い切り絞ってやった」
憲司はまた酒を注ぎ猪口の酒を煽った。
「そしたら、ヤローようやく吐きやがってな・・・。I(地名)で一家四人と犬をヤッて来た(殺して来た)って吐いたんだ(猪熊事件)。そんな大変な犯人を素手で捕まえたって言う事で県内の警察署では俺の名前が一気に有名に成ってな。その頃はまだ日本が戦争に負けてまも無い頃だったから千葉管内も相当荒れていた。闇市では朝鮮人が蔓延って、我がもの顔で日本人をバカにして大暴れしてたんだ。そいつ等を懲らしめる為に特攻帰り(特攻隊の生き残り)や地元のヤクザ、それと俺達警察やMP達が前後を塞いでやっつけたんだ。ヤツ等は捕まるのを怖がって、ウイスキー(ジョニクロ)やチョコレート、粉ミルクなんか俺達(警官)に献上するんだ。もちろん、みんな取り上げて署に帰ってから酒盛りだ」
憲司は薄笑いを浮かべて話を続けた。
「でその後、暫くの間はKやKの駐在を回った(配属された)。そんである時、N署(市警)に転勤になり、『猪熊の功績』が評価されて刑事に抜擢されたんだ。その頃は刑事なんて云うのは相当大きな警察署でないと居なかった。だから、俺はたった一人で広い区域(広域)を担当したんだ。刑事に成ってからはあらゆる大きなヤマ(事件)を担当した。帝銀(帝銀事件)の時は管轄地区の薬屋を廻って、下山(下山事件)ん時は国鉄管内を調べて。何しろ常磐線が松戸、柏、我孫子通ってるからな。でもある時突然、上から捜査の中止がかかったんだ。上はGHQだしな」
マコトは憲司の話を真剣に聞いている。
そして、その仕事の経歴に感心して、
「すげえんだなあ、父ちゃんて。・・・母ちゃん知ってた?」
また道子は台所から顔を出して、
「へえ〜、初めて聞いた」
続く




