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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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〜小さき者の使命〜

 私はミナ。


 18歳になりました。


 あれからずいぶんと時間が経ち、この辺りの景色はガラリと変わりました。

 高床の建物が並び、政と祭祀場を中心とした都作り。田んぼや畑は郊外へ移動し、大和川に繋がる大溝が完成して舟がずっと近くまで入って来れるようになりました。


 昔のムラの面影は無くなってしまったけれど、神女様が教えてくれたことは全部覚えてる。


 土の匂い、草の匂い、オオミ姉さんとオクト兄さんの笑顔……そして、神女様の温かい手。


 あの夜、神女様が突然光に包まれて消えそうになったとき、私は怖くて袖をぎゅっとつかんでた。


「神女……行かないで……」


 涙が止まらなかった。


 でも、神女様は優しく私の頭を撫でて、胸の勾玉を私の首にかけてくれた。


 小さな勾玉。


 神女様の大きな勾玉から分かれた光の欠片。


 勾玉の『声』を初めて聞いたのもその時でした。


(ミナ……私はお前を守る。

 神女の意志を、お前に預ける。

 これからは、お前が纒向の神女だ)


 え……? 私……?


 そんな、神女なんて……できないよ……。


 私が戸惑っていると、勾玉の光が体の中に入ってきて頭の中にいろんな景色が流れ込んできた。


 大きな丘の上からの景色。


 そこに立つ女の子……私に似てる気がするけれど、もっと大人で髪も長くなってる。


 みんなが笑って、手を繋いで歌ってる。


 争いなんてない。


 みんなが、家族みたいに輪になっている。


「これ、私……?」


 勾玉が優しく答えた。


(そうだ。未来のお前だ。

 争いを避け、皆を笑顔にする。それが神女から託されたお前の使命)


 勾玉がそんな未来を見せてくれた瞬間――


 突然、外から悲鳴が聞こえた。


 熊野の狗奴国の軍勢が、村を襲ってきたの。


 鉄の矛が火を噴いて、村の端が燃え始めた。


 オクト兄さんが剣を構えて走り出す。


 オオミ姉さんが、私を抱きしめてくれた。


「ミナちゃん……逃げて!」


 でも、私は逃げなかった。


 勾玉が熱くなって、私の胸がドキドキした。


 怖いのに……怖くない。


 神女様が、私の中にいるみたい。


 私は広場の真ん中に立った。


 小さな体で、両手を広げて。


「やめて……! みんな、やめて!!」


 勾玉が爆発したみたいに、光が広がった。


 青い光の柱が天まで伸びて、村全体を包んだ。


 狗奴の戦士たちが、光に触れて膝をつく。


 矛が落ちて、炎が消えた。


 みんな、動けなくなった。


 ヤタおじさん(出雲の隻眼の戦士)が、驚いた顔で私を見た。


「こ、これは……神女の力……? いや……新しい神女か……」


 私は泣きながら、でもはっきり言った。


「神女様は、もう現代に帰っちゃった。

 でも、私が……私が引き継いだの。

 この勾玉が、私に教えてくれた。

 争わないで。

 みんなで、笑って生きようって。

 中河内も、吉備も、出雲も……みんな家族なんだよ!」


 ヤタおじさんが、ゆっくり刀を捨てた。


 そして、私の前に跪いた。


「新しい神女よ……我ら出雲は、纒向の妹を守る。

 新たに鏡と矛を贈ろう、出雲と纒向は永く共にあると知らせるのだ」


 オオミお姉ちゃんが、私を抱き上げてくれた。


 オクトお兄ちゃんが、天を仰いで笑った。


 村の人たちが、泣きながら手を繋いだ。


 勾玉が、最後に優しく光った。


 それは、神女様の声みたいだった。


(よくやった、ミナ。

 これで、本当に歴史が変わる。

 お前が、次代の中心よ)


 私は、みんなの顔を見回した。


 怖かったけど……嬉しい。


 神女様がいなくなっちゃったけど、勾玉の中にいる。


 私の胸の中で、ずっと見ていてくれる。


 それから、私は毎日勾玉に話しかけた。


「今日も、みんな笑ってるよ」


「新しいお友達が来たよ。中河内から、貝の首飾り持ってきてくれた」


「出雲のおじさんが、鉄の小刀をくれた。

 これで、みんなもっと豊かになるね」


 数年後……


 私はもう、大きな女の子になってる。


 大きな丘の上で、祭りの歌を歌ってる。


 胸の勾玉が、ぴかぴか光って、みんなの笑顔を照らしてる。


 神女様……見てる?


 私、ちゃんと繋いだよ。


 争いじゃなくて、笑顔のクニ。


 纒向は、今も、みんなの心の中心だよ。


 勾玉が、優しく答える。


(ありがとう、ミナ。

 これからも、繋いで……)


 私は、空を見上げて微笑んだ。


 遠い未来の誰かが、またこの勾玉を受け取る日まで。


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