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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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874日目 〜勾玉の力〜

 盟約を繋いだ日から数日後、纒向の空は黄金色に染まっていた。


 4つのクニの旗が風に鳴る広場で、私は静かに胸に手を当てた。


 勾玉が、まるで生き物のように鼓動を刻んでいる。


 私が現代から戻ったあの日から、勾玉の反応が日を追うごとに激しくなっていた。


 勾玉の反応の感じていると、後ろからある人物が近づいて来るのが分かった。


「神女……お前は本当に我らを救った」


 出雲のヤタさんが隻眼を細めて跪いた。


 彼は、クニに帰らず纒向に残った人物のひとり。


「いいえ、私は勾玉の言葉に従っただけ。救ったのは村の皆んな全員の力です」


 オオミとオクトさんは寄り添い、ミナちゃんは私の腕に顔を埋めている。


 その時――勾玉が『声』を発した。


(おばちゃん……よくここまで繋いだね。もうこのクニは大丈夫、おばちゃんがその気なら元の時代に戻せるけど……どうする?)


 私は息を飲んだ。


 現代には身内といえる繋がりもなくなっている、今ではここの方が家族と思える子達がたくさんいる。


 だと言って、死ぬまでここに居るのかと聞かれると悩んでしまう。


 この時代に来て約3年、実は……最近体がすごく弱っていると感じている。

 この時代の環境、食事、労働に体が悲鳴を上げ始めたのね。半年前に偶然戻った病院のベッドでさえ快適に思えてしまうほど。


 私が勾玉の声に言葉を詰まらせていると。


 突然――


 勾玉の表面に古代の文様が浮かび上がり、淡い青白い光が私の全身を包んだ。


 そして、頭の中に映像が流れ込む。


 ――それは、数十年……数百年後の纒向。


 巨大な前方後円墳が立ち並び、祭りの歌が響く。


 そこに立つのは、黒髪を長く伸ばした若い女性。


 彼女の胸にも、同じ勾玉が輝いていた。


(私は、選ばれた者の記憶と意志を代々受け継ぐ者。おばちゃんが去った後も、このクニを護るためにあり続ける……あそこに立つのは『勾玉を持つ者』の末裔)


 勾玉の力がさらに強くなる。


 私の体が透き通り、魂が引き裂かれるような痛みが走る。


 同時に、ヤタさんが叫んだ。


「神女の体が……光っている!?」


 そのとき、村の外れから悲鳴が上がった。


 狗奴国くぬこくの軍勢――


 熊野の最大の影が、盟約を嘲笑うように夜襲を仕掛けてきたのだ。


 鉄の矛が火を噴き、炎が上がる。


 パニックになった村人達が大声で叫び、逃げ回る。


「皆落ち着け! 動ける者は女子供を連れて川下へ逃げろ! 戦える者は武器を持て!」


 オクトさん達武人が、剣を抜いて構えるけれど敵は多勢。


 あちこちで悲鳴が上がり、建物が破壊される音が響く。


 ミナちゃんが私の腕にしがみつく。


 その時――勾玉が、爆発的に輝いた。


 光が柱となって天を貫き、広場全体を青い結界が覆う。


 狗奴の放つ矢はすべて弾かれ、戦士たちは光に触れた瞬間、膝をついて動けなくなった。


(おばちゃん、あなたはもう現代に戻らねばならない――

 けれど、私はここに残る。

 次代の者に……おばちゃんの意志を全て預ける)


 勾玉が私の胸からゆっくりと浮かび上がり、ミナちゃんの小さな胸の前に止まった。


 ミナちゃんの瞳が驚きに見開かれる。


「神女……これ……熱い……」


 私は震える手でミナちゃんを抱きしめた。


「ミナちゃん……聞いて。私はもうすぐ、この時代から消える。でも、あなたが次の神女よ。勾玉が、私の記憶も、未来の知識も、全部あなたに伝えてくれる。争いを避け、皆を繋げて……この纒向を、永遠の中心にして」


 ミナちゃんの頰に涙が伝う。


「嫌……神女と離れたくない……」


 勾玉が優しく回転し、二つの光に分かれた。


 一つは私の胸に戻り、もう一つはミナちゃんの首にかかった小さな勾玉となって輝いた。


(継承完了。おばちゃん、あなたの使命は終わりました。この子は今より、おばちゃんの魂の半分を宿す者となります。

 これより未来永劫……この勾玉はヤマトの王権を、影から支え続けるでしょう)


 村を守る結界を神の怒りと恐れ、狗奴の戦士たちが光に圧倒されて逃げていく。


 ヤタさんが天を仰いで吼えた。


「神女の力……! これが本物の神託か!」


 私は最後に、皆の顔を一人一人見つめた。


 オオミさんの優しい笑顔。


 オクトさんの力強い瞳。


 オババ様の穏やかな目。


 そして……ミナちゃんの、すでに少し大人びた瞳。


「みんな……ありがとう。

 私は未来で、あなたたちの子孫が作った歴史を見守るわ。勾玉が繋いでくれるから……また、いつか会える」


 勾玉の光が頂点に達した瞬間、私の体はゆっくりと透き通っていった。


 最後に聞いたのは、ミナちゃんの澄んだ声。


「神女……あなたの名前をもう一度教えて」


「氷見子……宮前氷見子よ」


「ヒミコ……私もこれからヒミコと名乗る!

 そして、私も神女が作ったこのクニの……全ての人を笑顔にしてみせる! この勾玉と一緒に……次代へ、ずっと繋いでいくから!」


 光が弾けた。


 ・

 ・

 ・


 私は、現代の病院のベッドで目覚めていた。


 胸に残るのは、小さな温もりを持った勾玉。


 そして、その夜――夢の中で見た。


 数百年後、箸墓古墳はしはかこふんの前で祭りを主宰する若い神女。


 彼女の胸には、私の勾玉が輝き、ミナちゃんにそっくりな笑顔で空を見上げていた。


「神女……見てる? みんな、幸せだよ」


 私は涙を流しながら、現代の空に向かって小さく頷いた。


 勾玉の神秘は、決して消えない。


 ただ、形を変えて、次代へと受け継がれていく――



 4つのクニの連合を脅威に感じた狗奴国が襲ってきました。そのタイミングで現代へと帰らされたおばちゃん。その意思はミナちゃんへと受け継がれ。


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