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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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873日目 〜オクトとオオミ〜

 薪が弾け、舞った火の粉が夜空に螺旋を描く。


 焚き火を囲んで旅先での出来事を話していた2人。


「そう言えばコイツは、出雲のクニでかなりモテていたぞ」


 出雲から客人としてやってきた大人の1人、ヤタが突然とんでもない発言をして場をザワつかせる。


「ブッ! 突然何を言い出すんだヤタ! 俺は静かに過ごしていただろう!」


 口に含んだ酒を吹き出して慌てて否定するオクトに、オオミの氷のような視線が突き刺さる。


「ほぉ、モテていたのか……」


 言ったヤタも思わず引いて、オクトの背後に隠れる。


「間違いだオオミ! 俺は何もしていない! 目立たぬよう、静かに役目のみ果たしていたぞ!」


「その割には慌てているな」


 必死に言い訳するオクトに詰め寄るオオミ。


「『すもう』と言ったか? あれでクニの力自慢を次々と倒してな。

 クニ1番の力持ちのザイトをひっくり返した時には、女どもの黄色い声が響いていたぞ」


 隣にいた別の大人が、さらに追い討ちを掛ける。

 

「だから、余計なことを言うな!」


 オクトの額に冷たい汗が流れる。


「ほぉー。出雲は、楽しかったようだな」


「オオミ! そんな事はないぞ! とにかくたどり着くまでの道のりは大変だった、山では野獣にも襲われた! 道が分からず彷徨ったり、海では潮に流されて一日中海の上と言う事もあったのだ。到着した時は食料も底をつきかけていたんだぞ!」


 オオミが、それまでの圧を止めてフッと優しい笑顔でオクトを見る。


「大丈夫ですよ。私は、オクトが他所で少しくらい羽根を伸ばしてきても、何とも思っていませんから」


 そう言うと、クルリと後ろを向いてその場を離れて歩いてゆく。


「オオミ!」


 追いかけようとしたオクトを、ヤタが腕を掴んで止めて「大丈夫だ、少しくらい不安にさせた方が上手くいくってもんだ」と余計なアドバイスをする。


「そっ、そうか?」


 ヤタの顔と、オオミの歩いていった先を不安そうに見つめるオクト。


 祭りの喧騒から離れた静かな場所、乾燥させる為に置かれた丸太に腰掛けて夜空を見上げるオオミ。


「ふぅ」


 私は、オオミがひとりで歩いてゆく姿を見かけて、そっと後を付けていたの。


 寂しそうな顔をしたオオミの側に寄り、声をかける。


「あらあら。ため息なんてついて、どうしたのオオミ?」


 ハッとして顔を上げたオオミの目は、真っ赤になっていた。


「オクトが……オクトが旅先で女と仲良くしていたって……私はもう捨てられるんじゃないかと……そんな事は無いと頭では分かっているけれど……。

 こんな年増の私より、オクトも若い女の方が好きなのではないかと思うと……不安で不安で……」


 私は、彼女の隣に座って背中をさすりながら慰める。


「何を言っているのよオオミ。あなたの旦那は他の女なんて目にしていないわよ」


 そして、さっきから後ろでオロオロして立っている人物に声を掛ける。


「そうでしょう? オクト?」


 驚いて振り返るオオミと、気付かれてないと思っていたのか慌てて出てきたオクトがオオミに駆け寄り、足元に跪いて手を握る。


「もっ! 勿論だ! 俺は、オオミ以外の女になんて興味ない! 俺が好きなのはオオミだけだ!」


 あっという間にオオミの頬が赤く染まり、オクトを潤んだ瞳で見つめる。


 あらあら、こんな所に私がいたんじゃ邪魔でしょうね。おばちゃんは退散致しましょう。


「そうだ、オオミ。冷えないように気をつけて、もうあなた一人の身体じゃないのだから」


 ごめんなさいねオオミ、ちょっとだけおせっかいさせて。


「えっ?! 神女?」


 振り返るオクトさんには返事をせず、そそくさとその場を離れる。


 そんなオクトの手を引いて、自分のお腹に手を重ねるオオミ。


「オオミ?」


 オクトの耳元に口を寄せて何かを囁く。


 重なり合った2人の影を、闇夜の空から眩いほどの星々が祝福の光を浴びせていた。



  帰って来るのを1番待ち侘びていたのは、お腹に命を宿したオオミさんでした。


 次回は、勾玉の意思と黒い影。

 

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