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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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872日目 〜光り輝く君〜

 髪飾りが金色の光を反射して、白い布が風に揺れる。


 纒向が、中河内が、吉備が、出雲が、同じ舞台に神器を奉納し同じ場所で酒を飲み交わしていた。


 その舞台の中央で――


 今まで誰も見たことのない装束に身を包み、松明の光を反射して踊るその姿に、そこに集まった全員の視線を釘付けにしていた。


 ・

 ・

 ・


「あらあら、あんなにはしゃいじゃって……何とか間に合ったわね」


 私がミナちゃんに渡したのは、僅かに集まった金を伸ばして作った髪飾り。


 それと、蚕の繭から作った絹布。


 その絹布を奉納舞のための装束に仕立ててミナちゃんに着てもらったの。


 私が着ないのかって?


 こんなおばちゃんが着るより、かわいいミナちゃんが着た方が良いじゃない。

 

 それに……ミナちゃんはこの村の神子。


 私が現れて神女と呼ばれる前までは、儀式の際に舞台で奉納舞を踊る神子だったのだから。


「神女! これ凄い、すごく艶々だしフワフワして踊るととてもキレイ」


 ・

 ・

 ・


 吉備と出雲に彼らが旅立ってから半年後。


 村では今年も稲が順調に育ち、沢山の収穫をもたらしてくれた。

 脱穀し、俵に詰めた籾が高床式倉庫に積み上がる。

 猟に出て獣を狩り干し肉を作る。山に入りキノコや椎の実を集めて保存する。

 だけど、今日から数日間はそんな事お構いなしに蔵をあける。 


 纒向の祭祀広場は、大くの人が集まってすごい賑わいになっていた。


 この日の為に作られた舞台では、絹布の装束を着たミナちゃんが舞を披露し、その美しさに全ての参加者が見惚れていたの。


(ほらね、やっぱりこんなおばちゃんよりミナちゃんが踊って良かったでしょ)


 9人は見事に役目を果たして帰ってきた。

 

 オニシさんが中河内から塩と鮮やかな貝の首飾り、吉備から青銅の鏡と特殊器台を携えた使節団を連れて。


 オクトさんは出雲から朱塗りの木製品と鉄の小片を持って、大勢の出雲の人達と共に。


 広場の中央に立てられた巨大な柱の周りで、4つのクニの長老たちが杯を交わす。


 吉備の長が笑って言ったの。


「纒向の神女よ……お前は我らに『戦う理由』を奪ったな。これほど美しい祭りを見せられては、矛を振るう気など起きんわ」


 出雲の代表も深く頷いた。


「我らの神も喜んでおる。これからは、鉄を分け与えよう。代わりに、汝らの祭りの歌を教えてくれ」


 私は喜んで長老達の申し出に応えたわ。


 そして、纏向、中河内、吉備、出雲の4つのクニで協定が結ばれた。


 お土産は、種籾の他に絹布とガラスの管玉。


 製鉄は止めた、鉄は農具になるけれど武器にもなる。鉄を増やすという事は、見る側からすれば武器を増やす準備とも見られてしまうから。


 その点、ガラスは違う。


 ガラスは宝飾品、儀式の為に使われる物。


 まだまだ朝鮮由来の品が多いけれど、このクニで作れるとなれば影響力が違ってくる。


 それぞれのクニの長老と遣わされた人達は、驚きと満足そうな顔で帰って行ったわ。


 祭りが終わってホッとしたその夜。


 勾玉が再び優しく光った。


 私は一瞬、現代の病院のベッドで目覚めたような気がした。


 でも、今度は恐怖の未来ではなく――


 皆が笑顔で手を繋ぎ、大きな前方後円墳(まだ小さいけれど)が静かに眠る、平和な風景が見えた。


 ミナちゃんが私の手を握りながら囁いた。


「神女……これで、本当にみんなが幸せになれるの?」


 私は微笑んで答えた。


「ええ。これが、私が変えたかった『本当の歴史』よ。

 争いではなく、共存のクニ。

 纒向は、これから『皆の心の中心』になるの」


  ◯


 パキッ


 森の中、遠くから纒向の祭りの様子を眺めていた人影が低い声で密やかに話す。


「あれは……中河内に吉備?、出雲までいるのか」


 遠目の効く男の呟きに、周囲を警戒していた男が声を掛ける。

 

「どうだ? 奴らの様子は」


「4つのクニが纏まろうとしている、これは直ぐに帰って国頭様に報告しなければ」


 目で合図し、スッと暗闇に消える人影。


 不穏な空気だけが残る中。


 祭りの余韻を残す焚き火の炎が、パチッと音を立てて夜空に上がった。


 それは、まるで新しい時代の始まりを嫌う狼煙のように怪しく影を引いていた。

 


 おばちゃんは、歴史に沿った纒向の姿を取り戻しました。そして森の中の怪しい影……


 次回は、それでも歴史は。

 

 

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