少し寄り道したのち、帰寮する
ユーベルと別れ、帰路につく。
飛行は順調だ。
だが、ユーベルがいないので、行きに比べると会話は少ない。おしゃべりなユーベルの不在は、大きい。
ちなみに、アスワドは手の平サイズになってもらい、私の胸元に仕舞った。ちょこんと顔を出して、雲よりも高い空の旅を興味深そうに堪能している。高さに対する恐怖は無さそうだ。
「ところで」
あくびを飲み込みつつ、私は口を開いた。
「騎士団の構成って、どうなっているのですか。第1騎士団と第2騎士団、他の領との騎士団の関係がよく分からないのですが」
このままでは寝てしまいそうなので、思い付いた質問を投げ掛ける。エクバルトは快く説明してくれた。
「第1、第2という呼び方は、簡易的なものだね。正しい名称は帝国白日騎士団、帝国蒼夜騎士団という」
「へえ!」
なかなかご立派な名前だ。
エクバルトが小さく苦笑を漏らす。
「まあ、多くの国民も正式名称があるなんて知らないと思うよ。……騎士団は、元々は一つしかなかった。それを、魔物の討伐専門で独立させたのが蒼夜騎士団なんだ。設立当初から第1、第2と、みな呼んでいたらしい。ということで、単に外向けとして仰々しい名前を付けたんだろうなぁ」
いやいや、そんなことはない……と思うが。
「設立当初、蒼夜騎士団はかなり大きかった。それだけ、帝国に魔物が多かったからね。でも帝国全体にクレメンシエル様の祈りの魔法が広がると、一時期、ほとんど魔物が出なくなったんだ。で、そのときに規模が縮小され、代わりに各領の自警団を格上げして領騎士団とした。蒼夜騎士団の者がかなり移籍したかな。自警団は平民出身者が主だったから」
「へえ……」
「という訳で、各領の騎士団は有事の際―――つまりは魔物が出て対応し切れない場合、蒼夜騎士団の指揮下に入る。ただ、国の騎士団としては、白日騎士団の方が格も規模も上だ」
「規模も?」
「そうだよ。いざ、他国から国を護るのが白日騎士団だから」
ふうん。
つまり、第2騎士団および領騎士団は基本的に対魔物の騎士団ってことか……。
帝都へ真っ直ぐには帰らず、アインベルガー領に少し寄らせてもらう。
フレディスに、一月か二月後にはゼックスバッハ領から働き手がやって来ることを伝えておかねばならない。
アインベルガー領へ寄る理由をエクバルトに詳しく言わなかったが、予定よりも早く魔物の件が片付いたからだろう、寄り道は簡単にOKしてもらえた。
さて、フレディスに……悩んだ末、その働き手が元盗賊という件は隠しておくことにした。
あいつらも、自分たちの正体を喧伝することはないはずだ。
連絡なく突然やって来た私にフレディスは驚いたものの、話をすると「分かりました」と頷いた。
「寮の部屋に空きはありますし、少し向こうの村では家を何軒か建てる話が出ています。急に人が増えても問題ありません」
何か裏に事情がありそうだとは察しているらしい。しかし深く尋ねてくることもなく、フレディスは受け入れを了承した。
実際、働き手が足りていないので、人が増えるのは有り難いのだ。
「じゃあ、彼らが来たら、また連絡をください」
「はい」
―――元盗賊が真面目に働くかどうか、ちゃんと確認しておかないとな。
学園の寮に帰ると、アスラが拗ねていた。
もう夕方だが、リーゼッテは部屋にいない。
『咄嗟に喚び出すのが犬というのは、納得がゆかぬ』
ベッドの上ででろーんと寝そべっている白猫が、ジト目でこちらを睨む。
私は荷解きをしながら、答えた。
「あのときは、その場からすぐに離れたかった。だから、背に乗れるアスワドが適任だったんだ」
『いいや。主殿は、基本的に犬贔屓ではないか。妾のことなど、ちっとも思い浮かべぬ』
「……相手は巨大な百足だったんだけど。アスラ、もしかして見たかったのか?」
『ムカデ?』
「そう。この寮くらいの高さはありそうな、百足」
ちなみに、寮は三階建だ。アスラの鼻の頭に皺が寄った。
『なるほど。それは、妾より犬が適任であるな』
「だろ。……でも、今度からはアスラを喚ぶよ」
『結構じゃ』
だと思った。
だってアスラ、蛇が嫌いだもんな。同じように長い百足も好きじゃないはずだ。
もそもそと起き上がり、アスラは人型になる。
「で、ムカデは退治したのかえ?」
「うん、騎士団がね。私は同行しなかったよ。アスワドには道案内させたけど」
「うむ、主殿が相手をする必要など、なかろう。蟲退治なんぞ、主殿のすることでは無い」
満足そうに頷き、アスラは立ち上がって部屋の片隅にある棚に向かった。そして棚のポットを手に取り、私を振り返る。
「では、妾が主殿の労をいたわろう。茶を淹れようぞ」
「アスラが?!」
「ふふふ……」
にんまりと笑んで、アスラはそそくさと茶の準備を始めた。
―――アスラの淹れてくれた茶は、案外、悪くない味だった。
まさか、アスラが給茶をするなんて。
「どうじゃ?」
「うん、美味しいよ。すごいな、アスラ」
「妾に出来ぬことなど、ないのじゃ!……というより、主殿がおらぬと暇でのー。退屈しておったら、モシャ娘が教えてくれた。意外とモシャ娘は教えるのが上手い」
アスラがリーゼッテを褒めるのは珍しい。
というか、私がいない間、二人がどんな風に過ごしていたのか……気になるなぁ。
アスラとのんびりお茶を楽しんでいたら、リーゼッテが帰ってきた。
私の姿を見て、目を輝かせる。
「社長~!お、お帰りなさい!!」
鞄を放り出し、こちらへ駆け寄る。
「もっとお帰りは遅くなると思っていました!きゅ、急にアスワドを喚ばれるし、何かトラブルがあったかと……。あ、あの、それと、い、石はありました?」
「まあ、そういう話は順を追って話そう。……まずは座ったらどうだ?」
両手を握り締め、感極まって立ち尽くすリーゼッテに、私は椅子を勧める。
リーゼッテはこくこくと頷いて、急いで席に座る。座ってから、ハッと悲痛な顔になった。
「そ、そうだ……その前に社長、聞いてください……。わ、私、リーダーに指名されてしまいました…」
「なんの?」
「学生魔法対抗戦の班のリーダーです……!」
リーダーなんて、柄じゃないのにぃ!と、リーゼッテは両手で顔を覆って俯いた―――。




