発生源はどこなのか
後始末もろもろをユーベルに任せ、私とエクバルトは帝都へ帰ることとなった。ユーベルは片付けが終われば、そのまま蛙を捕まえに行く予定である。
帰り支度をしていたら、ユーベルが上目遣いで私にすり寄ってきた。
「ね?アスワドを貸してくれたり……しないよね?」
「無理です」
「だよねー……。でも、あの魔物がどこから来たかを、知りたいんだよなぁ」
なるほど、アスワドの鼻が必要と。
「ですが、あの魔物がこの辺りに出現してから、それなりの日数が経っているでしょう。ここから離れた別の場所から来ていたとしたら……時間が経ちすぎていると思います。アスワドも、追うのは厳しいかと」
頼りになるのは確かだが、さすがにアスワドでも難しいだろう。
私が指摘すると、ユーベルは肩を落とした。
「そっか。確かに……」
「別の場所から来たと考えているんですか?」
「この辺りに魔気の濃い場所がない。魔物は大抵、魔気の濃い場所から出現する。あいつも、魔気の濃いところで生まれて、エサを探しながらこの辺りに来たはずなんだ。国で把握していない濃い場所があるなら、きちんと調べておく必要がある」
「へえ、魔気の濃い場所、国は把握しているんですか」
危険地帯だから、当然といえば当然かな?
それにしても……魔物に対する結界を張っていると豪語するわりに、帝都から近いシュティル湖しかり、他の地にもちらほら、結構帝国には魔物が存在するよな……。
言葉には出していないが、私のそんな思いを読み取ったらしいユーベルが苦笑いをした。
「魔物が出る地域をそのままにしているのが不思議だって顔をしてるね?……別に、そのままにはしていないからね。周辺に光の楔を打って、他へ魔物が出て行かないよう対策はしている」
「シュティル湖も?」
「うん。魔気の濃い場所が出来るのは自然のことだから、どうしようもないんだよ。基本的に、立入禁止区域に指定される。さらに、たまに魔物が人里に出てくるのも仕方がない面もあって……だからこそ、第2騎士団が存在する。設立時と比べて、一時期、魔物がほとんどいなかった時期もあるから、第2騎士団の設立意図を知らない者も多いけれど」
ユーベルは肩をすくめた。
そして、ふいに声をひそめる。
「でもまぁ……魔気の濃いところに異様に魔物が多いのは、帝国内から魔物を除去するクレメンシエル様の祈りの魔法のせいもあると思うけどねー」
それは……自然の法則を捻じ曲げている副作用のようなもの、ということだろうか。
ユーベルがさらに声を小さくした。
「あ、この話は、他の人に言わないようにね!クレメンシエル様の加護を貶めるつもりかと怒られる」
「怒られたことがあるんですか?」
「国教会や、一部の貴族に怒られた」
言ってから、ユーベルは首を振った。
「魔物が帝国からいなくならないのは、クレメンシエル様への祈りが足りないせいだ、何を言うのかってね。でもクレメンシエル様は、初代皇帝にこう言っているんだよ―――天族と違い、人は光と闇の両面を持つため、この地から闇を完全に払うことはムリでしょう、と」
「人の心が闇を引き寄せると……?」
「うーん、どうだろうね。そういう意味かどうかは分からないけど……でも、そもそも世界は当初から地水火風と光と闇、6つの属性で成り立っているよね。だとしたら、一つ欠けても、世界の均衡が崩れてしまうんじゃないかな。クレメンシエル様もそれは分かっていたんだと思う」
光があれば、闇は必ず出来る。どちらか片方だけでは、存在し得ない。
自明の理だ。
ユーベルの言う通りに違いない。
「あーあ……」
ユーベルが大きく伸びをした。
「仕方ないなぁ、アスワドは諦めて……騎士たちに協力してもらって、周辺で少し聞き込みをしてから、カエルを捕まえに行くか。思ったより早く魔物退治も済んだしね。時間は充分にある」
「蛙のいる場所は、ここからかなり遠いんですか」
ふと、気になったので聞いてみる。
蛙の生息地をユーベルは地図で確認していたが、私は見ていないのだ。
私の質問に、ユーベルは懐から地図を取り出した。
ゼックスバッハ領やズィーベンタイヒ領など、帝国北部の地図だ。
「今いるのが、ここ。カエルがいるのは、ゼックスバッハ領でもかなり端のここ。……もしムカデがここから来たのなら、ゼックスバッハ領でも騒ぎになってるよね?」
「そうですね」
「でも、ゼックスバッハ領では何も聞かなかった。ということで、ここは違う。それにしても―――カエルの生息地ってさ、ティーフェからも離れているよね。よくカエルのことを知っていたなぁと思うよ。それに、大量に捕まえたのもすごい。その労力を、もっと違うことに使えばいいのにねぇ」
最後の言葉は、盗賊たちに向けての言葉だろう。
まさに、その通り。
私もつい、苦笑してしまう。ま、彼らは今後、アインベルガー家で頑張って働いてもらうのだが。
……ユーベルは眉を寄せながら、ズィーベンタイヒ領の中央付近を指した。
「ズィーベンタイヒ領で魔気の濃い場所は、ここ。やはり少し距離があるから……このベルゲン街道沿いの森のどこかに、魔気の濃い場所があると思うんだよねー」
「ここの、黒く塗り潰されているところはなんですか?」
「ああ……」
私が指したのは、ズィーベンタイヒ領の北部、他国との国境付近だ。ベルゲン街道と距離はあるが、不自然に黒く塗られているのが目についた。
私の質問に、ユーベルの顔が曇った。
「昔、たくさん魔物が出現して、第2騎士団に多くの犠牲者が出たって話はしたよね?その現場が、そこ。フレック村という。フレック村の祈りの結界は、修復できないほど壊れた。さらに、竜以外にも毒性の強い魔物が湧いて出たせいで、大地は汚染され人の住めない土地になっている。今、そこは完全に封鎖されて、八大公爵家による新たな結界が築かれているん、だけど―――」
話しながら、ユーベルは考え込む表情になった。
トントンと指が地図を叩く。
「そうか。その結界が緩んでいる可能性はあるな……」
黒く塗られた場所は、街道から距離はあるが……森は一続きで繋がってはいる。そして、間に人の住む集落などはない。
いつの間にか、エクバルトが後ろにいた。
もう出発準備は終え、ズィーベンタイヒの騎士とも挨拶は済ませていたようだ。
「……フレックか」
「フレック村には、かなり強固な結界を築いているので、大丈夫だと思っていましたが。確認してきた方がいいですね」
エクバルトの目つきが鋭くなった。腕を組み、眉根をぐっと寄せる。
「そこは団長が定期的に点検している。もし、そこから出てきたのなら……人為的な可能性が出てくるぞ」
「まさか!」
「ズィーベンタイヒの騎士たちも連れて、きちんと確認してきてくれ」
「……わかりました」
人為的な可能性?
もし、そうだとしたら、なんのために魔物を野に放つんだ?
先週は予告なしでお休み、すみませんでした。
風邪を引いて、頭が全然、働きませんでした。まだまだ気温上下な日々が続きますので、皆様もご自愛くださいませ。
それにしても後遺症かなぁ、いまだに頭の働きが悪くて文章がまとまらない~……。




