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ゼロ転生 ~ 気ままなモブスタート ~  作者: もののめ明
成熟期

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163/164

謎の魔物の正体は

 深い森の中を疾走する。

 走り出してすぐ、エクバルトもユーベルも体勢を立て直して、アスワドに乗ってくれた。

 だが、私に彼らを気にする余裕は無い。背後に迫ってくる気配に背筋を凍らせつつ、とにかく逃げる。

 どこがいい?!開けた場所か……?それとも……ああ、あそこだ!

 あの大きな岩!

 指示を出さずともアスワドは私の意を汲み取り、岩を駆け上がる。

 てっぺんに着くなり私はアスワドから飛び降りて、エクバルトとユーベルを振り返った。

「火の魔法は使えますか!」

「使える」

 エクバルトが短く答える。

 私は眼下に広がる森の中で、岩から近い、てっぺんが曲がっている高い木を指した。

「あの木の少し後ろ辺りに、火を放ってください!」

「火事になるぞ?!」

「木には当てず、空中で破裂させるような感じです!」

「無茶を言う……」

 そう言いながらも、腰の剣を抜いて呪文を呟き、エクバルトは火の魔法を放った。

 シュッ、ボウッ!

 私が指示した付近で鮮やかに炎が上がる。

 その途端、こちらに向かっていた黒い影が引き返してゆくのが見えた。

 良かった……。

 思わず、力が抜けてその場にへたり込んでしまった。アスワドが宥めるように、頬を舐めてくれる。

「えーと?……いまいち状況が掴めないんだけど……何か、追いかけてきてたの?」

 ユーベルが、私とエクバルトと炎を飛ばした辺りを交互に見る。

 エクバルトも頭を掻きながら、剣を軽く振る。

「リン、申し訳ない。私もさっぱり分からない。何があった?」

 エクバルトはすぐ動けるように、まだ剣は抜いたままで臨戦態勢だ。いつもは飄々としているのに、今はその気配が完全に消えて、刺すような鋭さを放っている。

 ……そうか。この程度の月明かりであの距離だと、彼らには見えないか。

 私の場合は身体強化だけでなく、暗闇でも見えるもんな。

 私はエクバルトを見上げた。

「百足です」

「……むかで?」

「今回の魔獣の正体ですよ。巨大な、百足」

 吐き捨てるように言うと、エクバルトはしばらく熟考した。

「むかで」

 そしてゆっくりと繰り返し、首を傾げる。

「ん?……もしかしてリンは、百足が苦手なのかい?」

「苦手ではなく!見るのも嫌なくらい、嫌悪しています!!」

 私は百足……何よりもあの大量の足に、どうしようもなく生理的嫌悪感を感じるのだ。全身が怖気だって、例え安全なガラス越しでも見たくない。これはもう、理屈も何もなく、本能のようなものだ。

「……巨大蚯蚓、平気だったのに」

「蚯蚓とは、まったく違います」

 蚯蚓なんて、可愛いくらいじゃないか!

 なんなら、飼い慣らして騎獣にすることも平気だ。

 ユーベルがポカンとする。

「え……ムカデが嫌いだから、逃げたの?!」

「一人で逃げ出さなかっただけ、これでもかなり理性が働いています」

 というか。

 細い月明かりの下、上半身を上げて辺りを窺う百足が見えた、あの、瞬間!

 咄嗟にアスラの闇魔法をぶっ放さなかった、自分を褒めたい。もし、恐怖に負けて後先考えずに魔法を放っていたら……辺り一面、焦土だ。

 絶対、火力調整なんて出来なかった。

「まさか、リンに苦手なものがあるとは……」

 エクバルトが苦笑混じりに言い、剣を仕舞う。

 肩から力が抜け、雰囲気が柔らかくなった。

「蛇や、蜘蛛は?」

「蛇も蜘蛛も蠍も平気です。私が嫌悪しているのは、多足類です。百足やゲジ」

 ヤスデも多足類だが、足が短いし動きが遅いので問題ない。たくさんの長い足があって、速く動くものが嫌いなのだ。

 ああ、あともう一つ。

 多足類ではなく等脚目であるフナムシも好きではない。あのウゾウゾとした足を見るとゾッとする。が……あいつらはすぐに逃げるので、まあ、なんとか許せる。

 ちなみに、ゴキブリも(決して好きではないが)平気である。

 ユーベルが呆れた顔をした。

「獰猛な獣に比べたら、虫なんてカワイイもんじゃん」

「あのデカさは、可愛いといえる大きさではないでしょう」

「ああ、うん、魔物になるとそうだけどさー。でも、普通の小さいのも、ダメなの?前世で何かあった?」

「前世ではなく、前世の前世で襲われたのかも知れませんね」

「なぜ、前世の前世……」

 それは、前世で幼少期からすでに駄目だったからだ。

 エクバルトがユーベルの肩を叩く。

「まあまあ!私も実を言えば、ナメクジが駄目なんだ。人間、何かしら苦手なものはあるさ。とはいえ……この探索にリンを加える訳にはいかなくなったなぁ。あの暗さで、遠くの百足に気付いたリンの目の良さは、かなり頼りになるんだが」

 外してくれるのは助かる。

 百足と分かった今、遠目だろうと、見るのも嫌だ。

 アスワドが私に身体をすり寄せてきた。どうやら慰めてくれているようだ。

「そっかぁ。じゃあ、副団長と僕の2人でやるしか、ないかぁ」

「ああ。……ま、敵の正体が分かれば、それだけでも心積もりが違う」

 正体、ね。

 確かに、何が敵か分からないよりは、対策が立てられる。

「えーと、百足は体液にも毒性があるそうなので。安易に斬らないよう、気を付けてください」

 前世の百足と、この世界の百足はまったく同じではないだろうが……今まで、似通った昆虫、獣、植物をたくさん見てきた。似ているなら、ある程度は中身も似ているに違いない。そして、弱点も。

「弱点は頭部と熱です。小さければ、熱湯をかければ済むんですが……そうですね、頭部を焼くといいかも知れませんね」

「わかった。ありがとう」

 同行しなくていいのだ。情報くらい、喜んでいくらでも提供する。

「それにしても……できれば昼間、潜んでいる場所を叩きたいなぁ……。こんなに鬱蒼とした森の中、夜は不利だ」

「でも、これだけ広いと捜索は難しすぎますよ、副団長」

 ユーベルが絶望的な顔で森を示して言う。

 すると、アスワドが鼻先で私を押してきた。

 え?

 手伝ってくれる……のか?


 翌朝、ズィーベンタイヒの騎士たちとエクバルト、ユーベルは、アスワドに導かれて百足退治に向かった。

 百足の匂いを、アスワドが追ってくれるのだ。

 私はといえば、百足を見たくないので、離れた場所で一人待機である。

 ―――半日ほどで、エクバルトたちは戻ってきた。無事に百足退治できたらしい。

「賢いね、この子!魔獣なのに、主から離れてもちゃんと行動する。こっちの言うことも分かってるようだし」

 帰ってくるなり、ユーベルが興奮して私に突進してきた。

「アスワドは、ちょっと特別です」

 なにせ、アスラの影響を受けている。普通の岩狼とは、かなり違っているはずだ。

「へぇぇぇ。……他の魔獣は?喚べる?」

「喚びません。あ!あと、アスワドに勝手に触れるのも無しですよ。襲いますからね?」

 いい子のアスワドはそんなことをしないが、今は私の意図するところを察し、ユーベルに歯を剥く。

 ユーベルは、慌てて一歩下がった。

 魔獣研究は、重要なことだと思う。でも、他の魔獣とは違うアスワドやミチルを詳しく調べられるのは困る。

 協力できるとしたら、見せることくらいだろうか。

 どこからか、エクバルトがズィーベンタイヒの騎士たちと共に、猪のような獣の死骸を持ってきた。

「リン、こいつをアスワドに与えていいかい?今回の報酬代わりだ」

「はい」

 獣を見るなり、アスワドは耳をピンと立てて嬉しそうにお座りした。

 私は耳裏を軽く掻いてやり、「食べていいぞ」と許可する。

「うぉん!」

「……優秀だなぁ、アスワド。そうだ!第2騎士団に入団しないか?特別に騎士の一人として!」

 エクバルトがにこにこと言う。

 私は顔をしかめた。

「駄目です」

「残念。……そうそう、リンも、今回は本当に助かったよ。言われた通り、頭を焼いたら早かった。アスワドが百足に気付かれないよう、上手に回り込んで案内してくれたしね」

 へえ!さすが、アスワド。

 豪快に肉を貪るアスワドを眺めながら、エクバルトがほうっと深い息を吐いた。

「いやはや……リンを連れてきたら敵と遭遇しやすいかな?と思ったら、まさに当たりだったなぁ!その上、退治も楽だったし。……リン、なんなら副団長の座を譲るから、第2騎士団においで」

「だから、入りませんって!」

 冗談!

 どう見ても、第2騎士団の副団長なんて雑用係じゃないか。そんな座、欲しくない。

 私は、組織に入るならトップがいい。

 でも今世では、トップには立ちたくないんだよな……。組織的面倒ごとなど、全部、他へ任せてしまいたい。

 というか、前世では自分で会社を立ち上げて、下っ端会社員を経験することがなかった。今世で、あちこち使われる立場を経験してみたら……案外、これはこれで面白いと感じる。

 前世で、きっと私はあまりにも早く上に行ってしまったんだろう。もう少し、下の立場を体験したり、好き勝手する自由を満喫しなければ。なにせ、まだ15歳なんだからな!

リンにも大の苦手なものが出現!

これがもし広く知られると……学園で机の中にムカデとか、嫌がらせを受けたりして?


(今回のシーンを書くにあたり、ムカデの習性をググったら……一緒に画像も出てきて、私もダメージ!!いや~、キモ~~~!!!)

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― 新着の感想 ―
アスワド大人気。ペットが褒められると自分まで嬉しくなっちゃうね
いつも楽しく読んでます! ムカデはね〜自分も駄目です! 田舎あるあるでどこからか侵入するし大きいしね! 後は小さくても(布団とかもぐりこまれて)少し驚くと噛み付くし痛い! いろいろ侵入阻害の工夫…
中学生くらいの時の夏に寝てたら、いきなり胸あたりに何か落ちてきて移動する感じからムカデってわかって跳び起きたことがあるw しかも夏でTシャツ1枚で寝てたから首のとこから中に入ってきてむっちゃ慌ててたw…
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