夜の街道
更新、遅くなりました…
翌日。
朝から、隣領へ向かう。
ちなみに昨日、エクバルトが戻るより前に、ユーベルには魔気を溜めるカエルの話をした。当然ながらユーベルはそちらにも行く!と言い出したのだが……地図を調べると、今回、調査に向かう地とは離れていることが分かった。
ということで、ユーベルは魔獣の調査終了後、一人でカエル捕りに行くそうである。
ユーベルの誘導無しで、帰りの長距離飛行は大丈夫だろうか?と心配になったが、エクバルトも問題なく翼鬣犬を扱えるとのこと。良かった。
あまり長く副団長が騎士団を留守にするのも良くないので、ユーベルは別行動をするのだろう。まあ、カエル捕りを手伝わなくていいのは、助かる。
なお、"こんなカエルがいると地元の噂で聞いた"とユーベルはエクバルトに説明をしていた。私と盗賊団の関係は、隠しておいてくれるようだ。
―――翼鬣犬を高く飛翔させず、隣領へ向かう。
この辺りは山深くて、村などは見当たらない。
「それで、どんな魔獣がいるんですか?」
今日は天気が悪く、そのうち雨が降り出しそうである。とりあえず、気になっていた件を私はエクバルトに質問した。
すると、低いエクバルトの唸り声が返ってきた。
「んんんーーー……聞いて回ったけど、夜行性らしくて、はっきりした姿を見た者がいないんだ。遭遇した者の多くが死んでいる。かなり動きが速いらしい」
「なるほど」
「もっぱら、巨大な蛇だという噂だけどね。毒も持っているらしいし。……ただ、死体が真っ二つに切断されているのが気になる」
ふうん、なかなか不気味な敵だな。
「……巨大な蛇なら、這ったあとを見つければ、跡を追えるんじゃないですか?」
「どうだろう。昼間、領の騎士団も捜索したけど、見つからなかったという報告だから」
ということは、私たち3人で探すのはもっと厳しいのでは。
そう思っていたら、前方から月豹に乗った数騎の騎士が見えた。ズィーベンタイヒ領の騎士だそうだ。
あっという間に合流し、先頭の騎士がエクバルトに頭を下げる。
「エクバルト副団長、わざわざ当地までお越しいただき、ありがとうございます」
「礼はいい。……で、何か進展はあったか?ゼックスバッハ領で聞き込みをしてきたが、向こうには出ていないようだな。ただ、街道を使うと危ないという話が広く流布していた」
騎獣を降ろすことなく、飛びながらエクバルトが話をする。エクバルトのすぐ横についた壮年の騎士は、厳しい顔をして頷いた。
「はい。ベルゲン街道は、森の中を縫う道です。ズィーベンタイヒ領のベルゲンから、フォルネまでを結ぶ重要な道ですが、途中に村もなく……その街道を行く商人は、たいてい真ん中辺りで一晩は野宿しなければなりません。この頃は、めっきり往来が減りました」
一気に説明してから、騎士は溜め息をついた。
「魔獣は夜に出現するので、我々も夜に街道を警らしているのですが……一向に出会わずでして。商人たちだけだと、かなりの確率で襲われるのに」
魔獣も、弱い人間とそうでない人間は区別がつくんだろう。
エクバルトはしばらく思案していたが、「わかった、では」と騎士たちを見渡した。
「今夜、私たちだけで野営する。君らは、少し離れたところで待機だ」
「はっ」
さて……今夜、出現してくれると有り難いが、もしかして何日も滞在することになりそうか?
ズィーベンタイヒ領の騎士たちは、どうも私をエクバルトの身の回りを世話する小姓だと思っているらしい。
エクバルトが騎士たちと野営ポイントや待機場所を決めている間、年若い騎士が私を呼んで食料や薪を渡す。
「お前、ちゃんと料理は出来るな?ムリなら、調理したものを用意してくるが……」
ヒルムートより少し若そうな騎士は、純朴な雰囲気が滲み出ていて、人が好さそうだ。
「出来ます」
「そうか。……あれ?女の子??」
どうやら私の声で気付いたらしい。騎士の目が丸くなった。
「うん、女の子だけど、強いよー。第2騎士団の秘蔵っこなんだ」
後ろから声がして、ユーベルがひょいと薪を取り上げて担ぐ。
「僕がこっちを運ぼう」
「私一人で全部運べます」
「まあまあ。ここから結構歩くから、体力は温存しておこうよ。夜も寝れないしね」
別に体力を使うほどでも無いんだが……まあ、お言葉には甘えるか。
なにせ騎獣を置いて、私たちは徒歩で数キロほど先へ行かねばならない。
翼鬣犬を3頭も連れて行けば、件の魔獣が用心して寄ってこない可能性が考えられる。代わりに馬で行く案も出たが、魔獣が出たら馬はパニックとなり、余計に現場が混乱しそうである。
という訳で、徒歩となったのだ。
「副団長~、水をよろしくお願いしまーす」
ユーベルは遠慮なくエクバルトにも荷物を押しつけ、颯爽と目的地へ向かって歩き出した。
少し開けた場所を見つけ、野営準備する。雑草が生い茂っているので、軽く雑草も刈らねばならない。
3人で手際よく草を刈り、続いて火をおこす。
騎士からもらった食料を見てみると、肉と、スープの材料だ。
この辺りは、食料となるような獣が少ないらしい。塩漬け肉ではなく、新鮮な肉を調達しようと思っていたのに……残念だ。
―――日が暮れる前に食事も済まし、あとはただ待つだけとなった。
「まあ、すぐに出てこないだろうから、リンは軽く寝ておいたら?」
ユーベルがそんな提案をする。エクバルトも、横で頷いた。
うーん……寝ていいというなら、寝ておこう。
睡眠は大事だ。
夜半近く。
なんとなく目が覚めた。
周りを見ると、ユーベルが仮眠、エクバルトが火の番をしている。空には、細い三日月。
「よく眠れたかい」
「はい。……副団長も寝ますか」
「いや、ユーベルと交代するから、いいよ。君を信用していない訳じゃないけど、騎士団の責任として、どちらかが起きてないとね」
まあ、そりゃそうか。
とりあえず起きて、喉が渇いたので水を飲む。エクバルトが私をじっと見ている。
「何か?」
「いや、寝ている姿は年相応の子供だなーと思うんだけど、起きていると、何故か、リンは団長より年上に感じることが多いんだ。どうしてだろうなぁ。よっぽど修羅場をたくさん、くぐってきたのかな」
「…………」
それは……やはり前世を足して、60を超える年寄りだからだろうか。
もっとも、私は決して自分をババアだとは思っていない。だが、若者という感覚が無いのは確かに違いない。
「修羅場かどうかは分かりませんが……帝国に来るまで、いろいろありましたから。副団長くらいですよ、私を若い女子扱いするのは」
「だから、若い女子だって。まだ10代で、そんなに悟ったらダメじゃないか。もっと若さを楽しまないと!」
おっさんな台詞だなぁ。これでも、ちゃんと楽しんでいるのに。
その、とき。
遠くで、弱い月明かりに銀に光るものが見えた。
ぞわっ。
全身に寒気が走る。
まさか……?
視力を強化して、木々の影に隠れたそれに目をこらす。
「リン?」
「うっ……わぁぁぁっっっ!」
「ふぇっ?!な、な、何、何が……」
飛び起きたユーベルと、驚いて硬直しているエクバルトの首根っこを掴む。
「アスワド!」
腹の底からアスワドを喚んだ。
今すぐ、ここから離れないと。
「うぉん!」
「もっと大きくなれ!」
「うぉん!!」
現れ、大きくなったアスワドに、ユーベルとエクバルトを掴んだまま跨った。
アイツがこっちに近付いている……急がなければ!
「走れ、アスワド!」




