リーゼッテに旅の話をする
学生魔法対抗戦とは、騎士科と普通科の学生たちがチームを組んで戦うイベントのことだ。2年に一度、開催される。
去年、私が参加した護衛職の武術大会や騎士科の試合と、年毎に交互で行われている。
対抗戦が行われるのはまだ半年ほど先だが、チーム発表は春先だ。
そして……チームは、学生たちの魔力量と属性を鑑みて教師たちが決めるらしい。対抗戦をそれなりに公平に行うには、やはりくじ引きでチームを決めると偏りが起こるからだろう。まあ、完全に公平かどうかは怪しいところだが。
ともかくも、リーゼッテは魔力量が学園で一番多い。チームリーダーに推されるのもおかしな話ではない。
「八大公爵家の娘だし、魔力量も多いし、リーダーを任されるのは仕方ないだろう」
「そ、そうなんですけどぉ……私も覚悟してたんですけどー……で、でも、チームが……チームが、もう、ほんとーにどうしようもなくて……!」
大きく肩を落として、リーゼッテは項垂れた。
力無く椅子に座り、そのまま肘をついて顔を手で覆う。
「きょ、今日は、各自の魔法習熟度を見せてもらったんですが、初級レベルの魔法も満足に使えなかったり、こ、こっちの話を全然聞かなかったり……問題児ばかりです!」
「へえ……」
「別に優勝しようなんて、か、考えていません。で、でも、惨敗だったら成績も下がるし、と、特別補習も受けさせられるんですって。さらに、そ、掃除とか、先生の手伝いとか、そういうのもしないとダメらしくて」
なるほど。手を抜くなよ?という意味合いがあるんだろうな。
「社長~、あ、あのチームでそれなりの成績を残すにはどうしたらいいか……一緒に考えてください~~~」
「それを考えるのも、この対抗戦をやる意義の一つなんじゃないのか?ちょうどいいじゃないか、今後、商会を運営していく過程で、似たような問題に当たることもあるだろう。対抗戦なら、失敗しても補習くらい。せっかくだから頑張って自分でクリアしなさい」
「うう、しゃ、社長のケチ~~~」
リーゼッテは涙目で私を睨んだ。
それにしても。
リーゼッテがそんなに絶望するほどのチームメイト……一体、どんな子たちなんだろう。
ひとまず魔法対抗戦の件は置いておき、私の旅の話をする。
見本市で盗賊が出たこと、盗まれた石を取り戻した結果、穴人族が礼に石を調達してくれること。
簡潔に説明したら、リーゼッテは先ほどまでの悲嘆はどこへやら、目を輝かせた。
「さ、さすが社長です!引きが強いというか、な、なんというか……災い転じて福となす?みたいな」
「そうか?」
「そうですよー。ぜ、前世でも、帰りの飛行機が飛ばなくて、フランスに数日足留めされたことがあったじゃないですか。そのせいで大きな商談がダメになっちゃって。な、なのに、フランス滞在中に何故か社長はアラブの富豪と知り合って仲良くなって、顧客契約は結ぶわ、プ、プライベートジェットで日本まで送ってもらうわ……すごかったですよねー。どうしてそうなるのか、わ、私には理解不能でした」
ああ、そんなこともあったなぁ。
たまたま、食事に出掛けた先のレストランで、支払いで揉めていた人がいた。カード決済をしようとしてもエラーが出て、もしや盗難カードでは?と疑われていたのだ。
しかし泥棒には見えなかったので、お節介かと思ったが、私が代わりに支払いましょうと申し出た。
で、私のカードで支払ったところ……三百万を超える額だったのには、正直、冷や汗ものだった……(高額のワインを飲んでいたらしい)。
で、相手は非常に感激し、私を滞在ホテルに招いてくれた。そこで身元を明かされ―――アラブの富豪トップ10に入る人物と知って仰天したという次第だ。普通の旅行者にしか見えなかったから、本当に驚いた。
仰天はしたものの……彼とは不思議と気が合い、以来、友人として付き合うこととなる。日本の庶民的な食事も大のお気に入りだった彼のために、何度もラフな格好で二人で居酒屋へ行ったりしたものだ。
「あれとは、だいぶ違うんじゃないか?」
「そうですか?」
リーゼッテは納得がいかない顔だ。
「しゃ、社長はマイナスな出来事に遭っても、必ずそれがプラスに転じる運命にあるんだなぁって、前世で何度も思ったんですけど。す、すごく困ったときも、どこからか助けの手が現れるし」
「それは、日頃の精進の結果だろう。別にお返しを期待していた訳ではないが、誠実な付き合いを重ねたことによる信頼で、いろいろと助けてもらえた。運じゃない」
運だけで行けるほど、世の中は甘くない。
まあ、多少、人より運がいい面があることは否定できないが……。
「いやー、しゃ、社長は絶対、強運の持ち主だと思いますねー。……と、とりあえず、石が手に入りそうなのは良かったです!その後は、ま、魔物退治だったんですね?アスワドを喚んだのは、手強い敵だったからですか?」
「あー……」
百足の話の前に、リーゼッテには打ち明けておくべきだろう。
「その前に、さっき話した盗賊のことなんだが……」
リーゼッテはすぐに頷く。
「つ、捕まえずに逃がしちゃったんですよね」
「ああ。……そうしたら、ティーフェを出たときに追ってきて、"稼げなかった責任を取れ"と言われた」
「はぁっ?!」
「ということで、アインベルガー領の工場で雇うことにした。帰りにアインベルガー領へ寄って、フレディスにも働き手が増えることを話してきたよ。ただ……彼女には、それが元盗賊だとは打ち明けていない」
「……な、な、ななな……」
リーゼッテが引きつりながら、目を剥く。美少女が台無しな顔である。
「なんで、そんな人たちを……や、雇うんですか……っ」
なんでだろうなぁ。
成り行きで、どうしようもなかったからなぁ。
「あれだ、私の引きが強いからじゃないか?」
「そういう引きは、つ、強くなくていいです!」
まったくね。
でも、私の今世の出会いは、妙なものばかり。悪魔や、前世の部下との出会いに比べれば……盗賊なんて案外、可愛いものだ。




