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ゼロ転生 ~ 気ままなモブスタート ~  作者: もののめ明
成熟期

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159/165

宝石を取り返してきたら

 鞄を持って、見本市の方へ。

 オトカールとユーベルの姿を、洞窟入口のゲートで見つけたので、手を振る。

 ゲートの周囲は警備兵だらけで、どうやら見本市への出入りが止められているようだ。

 ユーベルが私に気付いて、両手を振ってくれた。

「リン!急にいなくなったから、下に落ちたのかと心配したよー!」

 私が落ちるはずがない。

 一方、警備兵の一人が「あっ!」と私を指す。

「オトカールさま!こいつ、さっき中から飛び出していったやつの一人です!」

「リンさん、どういうことですか?」

 恰幅のいい男と何やら話していたオトカールが、やや険しい顔で質問してきた。

 ゲートまで行くと、中の人間が大勢押し寄せていて、警備兵と揉めているのが見える。私はオトカールに鞄を渡した。

「恐らくこの騒動の主だと思いますが……盗まれた鞄を取り返してきました」

「鞄??」

「中は、宝石でいっぱいですよ」

 オトカールと、警備兵が中を検める。

「ほんとだ、宝石だ!」

 オトカールが鞄と私を見比べる。

「これを取り返してきたと?……で、盗んだ犯人は?」

「これを放り出して、逃げていきました。鞄を回収しているうちに、姿は見えなくなっていたので……捕まえることは出来ませんでした」

 本気で捕まえる気がなかったことは、秘密にしておく。

 もちろん盗みは、絶対に良くない。犯罪は、犯罪だ。裁かれるべきだとは思う。

 だが、あの犯人を捕まえてオトカールに差し出していたら……まあ、恐らく死刑だ。

 前世の感覚のせいもあるだろう、それにこの世界での平民と貴族の圧倒的な差を感じるからかも知れない。私としては、窃盗で死刑はちょっと嫌なんだよな……。

 なので、分かっていて見逃したのだ。

 私の心中を知らず、オトカールと警備兵は難しい顔になった。

「犯人の顔は見ましたか?」

「いえ、顔は布で覆われていて、分かりませんでした」

「そうですか。……ひとまず、先に会場の騒動を収めます。あなたとユーベルさんは、屋敷の方で待機を願います」

「はい」

 警備兵3人と共に、私とユーベルはゼックスバッハ家の屋敷へ戻った。

 しかし、屋敷へ行くだけなのに3人も付いてくるなんて……もしかして、私も疑われているんだろうか?


 屋敷に着き、応接室でオトカールが帰ってくるのを待つ。

 屋敷の外には、付いてきた警備兵たちがそのまま待機している。私は外の警備兵を眺めつつ、ユーベルに質問した。

「……私は洞窟内が暗くなってすぐに不審者の後を追ったんですが、その後、どうなったのか教えてくれませんか。すぐ、明かりはついたんですか?」

 ユーベルはソファで寛ぎながらお茶を飲み、「えーと」と首を傾げた。

「君が暗くなってすぐに不審者を追っていったのには気付いたよ。ランタンが消えたのは……高濃度の魔気が洞窟内に充満したせいだね。どうやったのかは分からないけどさ。高濃度の魔気で、ランタンに負荷がかかり壊れたんだ」

 なんだ、私が下に落ちたと思ったと言ったくせに、本当は曲者を追っていったことに気付いていたのか。

 のほほーんとした言動で誤魔化されるが、ユーベルは元々は第2騎士団の団員だそうである。わりと優秀な騎士だったらしい。それは、どうやら本当のようだ。

「で……魔気の濃度が濃いと、魔力の低い人間は気持ち悪くなることがある。下層の方が濃くてヤバそうだから、とにかくまずは魔気をなんとかしようと思って……」

「魔気が濃いと死ぬことがあるのですか?」

 話の腰を折るが、気になったので思わず質問を挟む。

 ユーベルは首を横に倒した。

「うーん、魔気の濃いところってあんまり無いから、分からないなぁ。シュティル湖も濃いんだけど、死ぬほどじゃない。でも、魔力の低い人間は気持ち悪くなるらしくて、近付きたがらない。普通、魔気の濃い地は、少し手前で気持ち悪くなるからねえ。誰も、それ以上は行かなくなるんだ。ずっといると……どうなるんだろ」

 魔気の濃い地の植物や虫、動物は変容し、魔物化するものがある。

 人間も魔物化するんだろうか?それとも、変容に耐えられずやはり死ぬ……?

 いや、動植物が砂漠や密林に適した進化をするように、魔気の濃い地だって、動植物は時間をかけて合わせた形に変化しているんだろう。

「まあ、そういうワケで」

 ユーベルは茶をテーブルに置いて、軽く伸びをした。

「風を起こして、換気をしたよ。魔気が通常濃度になったら非常灯がついて、するとみんなが出口に殺到したって感じかなー。封鎖されていたけどね」

「そうですか」

「それで、君の方は?犯人を追っていって、全然、会話もなし?」

 ユーベルの目がじっと私に向けられる。私は肩をすくめた。

「この町を囲む崖の上まで追いかけました。分け前をやるから見逃せと言われたので、それは出来ないと答えたら、文句を言われましたが……結局は、素直に荷物を置いて逃げましたよ」

「君なら鞄を取り戻して、さらに犯人も捕まえられたと思うけどなぁ」

「買い被りです」

「そう?ま、僕らはこの町の警備兵ではないしねぇ。……って、こんなこと言ったのを副団長にバレたら怒られるや」

 ハハ、と笑ってユーベルは頭を掻いた。

 というか、ユーベルと私がいなければ、今回の件は大騒動になった可能性が高い。

 あの巨大な洞窟を素早く換気する魔法を使える者など、この辺りにはあまりいないだろう。そもそも原因も分からず右往左往していたはずだ。

 ユーベル、侮れないよな。


 ―――しばらくして、オトカールと恰幅のいい男と、がっしりした体つきの大柄な男の3人が部屋に入ってきた。

「ティーフェ鉱石組合のヴォール組合長と、ティーフェのオルト町長です」

 オトカールが紹介してくれる。

 恰幅のいい50代くらいの男が組合長、がっしりした体つきの60代くらいの男が町長。

「組合長のヴォールだ!いやぁ、宝石を取り返してくれて、助かったよ!なんと10店ほどが被害に遭ったらしくてね。それも特に高価な宝石ばかりだ。みな、大喜びしている」

 やや品のない大声で、組合長が嬉しそうに言った。その後ろで、町長が頷く。

「まったくね。……盗みに入ったのは、おそらくこの辺りで義賊として名を馳せている"黒い風"のヤツらだ。今まで、深穴での市に忍び込んだことはなかったんだが……いや、ほんと、あんたたちがたまたま来てくれて、助かったよ。他領の人間を深穴の市に参加させたのは初めてなんだが、許可して良かった……」

「義賊?」

 ユーベルが目を瞬かせる。

 いかつい顔の町長は苦笑した。

「ああ。あっちこっちでいろんなものを盗み、貧しい家庭に食べ物やら服やらを配り歩いてやがるんだ。貧しい人間たちには、大人気だがねぇ。町の安全や警備を担う者にとっては、頭の痛い存在さ」

「彼らの掟では、殺しは禁止のようですが……今回のような大きな仕事を妨害したあなたたちに、報復をしないとは限らない。ひとまず、町にいる間は警護をつけます」

 オトカールが後を続けた。

 なるほど、3人も警備兵がいるのは何故かと思ったら、そういう訳か。でも、私より弱そうな警備兵は、いると却って邪魔な気もする。

「自分の身は、自分で守れますが」

「そうだとは思います。しかし、こちらの体面もありますので」

「分かりました」

 仕方ない。

 オーディスの紹介である以上、オトカールも私たちに対して、粗雑な扱いは出来ないのだろう……。


 さて、義賊"黒い風"は盗みをしたあと、現場に特殊な染めの布切れを置いていくらしい。

 オトカールが見せてくれたそれは、15センチ四方の真っ赤な布切れで、斜めに三本線が入っていた。三本線だけ染まっておらず、元の布の色―――生成り色を見せている。

 ふうん……この世界にも、まるで前世のアニメでやっていそうな酔狂なことをする義賊がいるんだなぁ……。私は思わず感心してしまった。

 今回、この布切れは八層の橋に残されていたそうである。

 その布切れを前に、今、一人の男性がぷんぷんしている。

 鮮やかな黄緑色の髪をした彼は、一見、10歳前後の少年のようだ。身長は、130センチほど。だが……顔を見ると、明らかに成人だった。

 聞くところによると、彼は中央山脈に住む"穴人族"という種族らしい。ドワーフの遠い親戚にあたる種族なんだとか。

「まったく、義賊だかなんだか知りませんが、こっちが必死になって掘り出して加工した宝石を盗むなんて、とんでもないヤツですよね!ほんと、取り返してくれてありがとう!ありがとう!」

 彼は、わざわざ私に礼を言うために、組合長に頼み込んでここまで来たそうだ。

 ティーフェの警備兵の体面、及び私に対する不要な詮索を避けるためもあって、誰が宝石を取り返してきたかは公表しないという話だったんだが……。

「穴人族は、受けた恩は返す主義なのです!どうぞ、恩を返させてください。……あなたは、あの見本市に来ていたんですよね?欲しい石は見つかりましたか?もし、見つかっていないなら、どんな石でも必ず探し出しますよ!」

 ナウファルと名乗った彼は、熱心に言い募る。

 ふむ。

 欲しい石を探してくれるというなら……その言葉には甘えたいな……。

「では……化粧品に使う鉱石を探しているのですが。赤や茶色の石です。細かく砕いて使います。肌に使っても大丈夫な石をご存じですか」

「ほう!化粧に使う石……なるほど、今回の見本市ではあまり出てないでしょうね。この市は宝石の取り扱いの方が多いですから」

 ナウファルは何度も頷いた。そして、腕を組んで天井を見上げる。

「えーと……砂漠や南の島では、顔に赤い塗料で模様を描く民がいます。赤土を使っていることもありますが、漠赤石なんかが人気ですね。細かく砕きやすいし、水によく溶けます。これを使うと肌の具合も良くなるとか」

 へえ!それは良さそうな石だ。

「他にも2、3、思い当たるものはあります。いくつか揃えて、お届けしますよ!」

「わかった、ではお願いする。ただ、届け先は帝都かアインベルガー領が良いんだが……可能か?」

「もちろん!」

 にこっとナウファルは笑った。人好きのするいい笑顔である。

「一度、山に帰って品物を揃えてから向かいますので、2週間ほど先になりますが……」

 充分だ。というか、ここから中央山脈の方まで戻って、アインベルガー領へ行くのに2週間で大丈夫なんだろうか。

 穴人族は人族よりも体力があって、1日中走り続けたり、穴を掘り続けたりしても平気だそうである。だとしても……走って行き来できる距離じゃないと思うが……。

 ナウファルは唇に指を当てた。

「穴人族には、特別な移動手段があるのです。ただ、これは穴人族の秘密でして」

「なるほど。では、これ以上は聞かない。……石をよろしくお願いする」

「はい、承りました!」

 よし。思わぬ展開になったが、これで遠いゼックスバッハ領まで来た甲斐はあったというものだ。

すみません、来週はお休みします。

事情は活動報告の方に……。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! いつの世どこの世界でも身分差やいろんなことで不満はたまるだろうし、リンちゃんのように前向きに生きるのにも異世界となると『力や権力など』が必要になるしね、なかなかに底辺に落ちて…
遠出してきた分の労力に見合う成果を出せたようでよかったよかった♪
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