リィン・カーネイジの奔走
シオン先輩からの手紙!
ウォルフレッド騎士団長が届けてくれた手書きの手紙は、魔術の教本なんかじゃなく、シオン先輩の近況が綴られたものでした!
よぅく眺めて、じっと見つめて、匂いを堪能して、少しヘタで可愛い字をいただきます!
……。
…………。
「そんな……」
宮廷を離れて、用事があるとは聞いてました。
世界に名だたる大魔術師である先輩も、まだまだ少年……遊びたい盛りでやっと子どもの時間を過ごすのだと微笑んでいました。
魔女ステラ・エトワール? 魔術師を志したきっかけ? 10年前の約束⁇
「――これは、ウソですね」
そうに違いありません!
先輩は、シオン・ソーファーという人物はそういう人なのです!
生まれた時から魔術一筋、持って生まれた探究心と磨き上げた才能が眩しい私の先輩。時折私のことを気にかけてくれて、私に期待してくれていて、そしてそして……そんな先輩に、女性の影だなどと!
変な固有名詞のところはそれぞれ魔術で隠して読み進めます。
◆◆◆
「失礼します!」
先輩からの手紙を読んだ私は、居ても立ってもいられず、週に一度の宮廷魔術院定例会議に乗り込みました。
「なんだ貴様、リィン・カーネイジ! 失礼だろう!」
うるさいなぁ。
先輩の教えてくれた消音の魔術……自身の周りに魔力の膜を張り、任意の音を打ち消すもの。すごいです! ……を発動。あーあー聞こえないですー、とジェスチャーしても醜い顔をより醜く歪めるだけなので、コレも魔術……光の屈折をどうこうするやつ……でブロック。ブライ院長だけは仕方なくオンです。
「ブライ院長。シオン先輩の処遇についてはこの際問いませんが、これはどういうことですか!」
シオン先輩の手紙の複写(畏れ多い……!)を叩きつけます。
「ドラドレイクの発生、ゴブリンの営巣の看過! 何のための魔術院ですか、ここは!」
いずれも宮廷が滅ぶやもしれない案件です。特にゴブリンについてはだいぶ前に信書があったというではありませんか。
「フッ」
冷笑。
「我々はだね、リィン・カーネイジ……シオン・ソーファーの名を地に陥せるならそれも構わない、という結論を出している」
「は?」
何を……。
「生意気だったよ、あのガキは……。天才でありながら、誰よりその功績に興味がない。どんな発見も発明も、これでは意味がないと言いたげに履き捨てる。それに付いて回る市井の評価はどうだ? 『若き天才』『求道の魔術師』? ふざけるな!」
「……」
……。
「我々はあいつが生まれる前から、あいつの親が生まれる前から! ずっと、ずっと! 魔術と宮廷のために人生を捧げてきたのだぞ! ふざけるな……ふざけるな、シオン・ソーファー!」
……。
あー、そういう……。
「『宮廷にシオン・ソーファーあり』……結構! その宮廷魔術院に不出来があれば、糾弾されるのはヤツだ! ははっ、皮肉なものだな! 自ら高めた名声が崩れ落ち、その瓦礫に埋もれるのだシオン、シオン・ソーファー!」
「つまんないですね」
「な……」
ほんと、しょーもないです。
でも、横取り魔女のことを考えれば、腑に落ちないこともないですね。
シオン先輩は、シオン・ソーファーは私のものです。邪魔者が死なないなら、私が先輩の永遠を奪ってしまえばいい。
なら……
「そんなふうに性根が腐ってるから、シオン先輩に劣等感を抱くんですよ。見上げようにも足元ぐちゃぐちゃで、そのまま仰向けにドブの中に沈むんです」
私とコイツらは、利害が一致している――
「ちなみに、その事件はシオン先輩がふらっと解決したそうですよ? 無駄なんですよ、無駄無駄……あなたたちのこれまでは、人生は……」
「貴様ァ!」
会議室の足元に仕込まれた……いえ、宮廷の土台そのものでしょう……魔導陣が起動されました。
「へぇ。これがギズ村に広めようとした邪教ですか」
シオン先輩の部屋の資料は全て読みました。
先輩は基本的に人を疑わないので(裏切られたとしても即応し解決できるので)気付かなかったようですが、邪教徒の正体は宮廷魔術院の上層部……この人たちです。なにするのかなって思ってたら、こんな下らないことのためとは。
「詳しい……いや、賢しいな」
「えぇ。私はシオン先輩の後輩ですので」
「そう。だからこそ貴様にも唯一価値がある! いかにシオンといえど、溺愛していた弟子は手にかけられまい! ひひひひ!」
一際強い禍々しい光。
私を中心に収束していって、そして。




