お医者さん(仮) 3
ギルネシア魔森林で夜間火を焚くことはできない。魔森林に限らず魔獣魔物の出没する区域では『ここにいますよ』とアピールするようなものだ。
崖際でかぜよけになりそうな窪んだ場所をオルガは見つけたが不十分なので、シダは魔法で壁と屋根を補強した。
「あ〜、そうだよな、お前魔法使えるんだよな」
辺境警備隊に魔術師はいない。魔術師も国の中央寄りに配置されている。
「結界もはっとく?」
「いや、ワイバーンが俺を見つけられなくなるからダメだ」
オルガは崖にもたれ胡座を組んで座った。シダも隣に膝を抱えて座る。即席の休憩所は二人並ぶとギリギリだ。
考えたらこの2年、オルガの顔をこんな近くで見た事があっただろうか。
右頬の傷が否応なしに目に入る。
治療魔術を使えば消すことが出来る。一般の治療師に頼めば法外な金額を請求されるが【猛将オルガ】と呼ばれた彼ならぽんと払える金額だ。シダなら簡単に消せる傷、でもオルガは頼んできた事は無い。
ジッと見られている事にオルガは気付いて問う。
「なんだ?」
「頬の傷、そのままなんだね」
傷のある頬を指でぽりぽりとかく。
「こいつは…まあ、自分に対する戒めっていうか…その、なんだ、言葉じゃ説明しにくいな」
「あの事件が無かったらこんな辺境に飛ばされる事もなくて、今頃中央で出世して、将軍とかになってたよね」
「どうだかなぁ、どんなに手柄を挙げたとしても平民出の俺じゃ無理だっただろうな」
あの頃は気付いて無かった様々な事も今なら解る。その証拠にたった一度の失敗で中央から弾き出されたのだから。中央は【猛将】の名も消したいのだろう。御前試合の参加もあれ以降許されない。力を顕示すれば中央へ呼び戻さざるを得なくなる。それを良しとしない連中が居るってことだ。
「ゴメン、私達の所為だ」
「ーーッ」
瞳を潤ませ、今にも目尻から雫を溢れそうにして見上げて来る。震える下唇を噛んで堪える姿を直視できずオルガはおもわず顔背けてしまった。
それを拒否ととったのかシダは震える声で続けた。
「あの時、私がオルガの指示に従ってれば、自分の力を過信して飛び出したりしなかったら…」
つうっと雫が頬を滑り落ちた。
もうダメだーーーー
シダのウエストに手を回し自分の膝の上に乗せる。横抱きににしてシダの頭を自分の胸にだきよせた。
ビクッと一瞬身体を震わせたがシダはそのまま力を抜いてオルガにもたれて長い睫毛を伏せる。
「お前の所為じゃねえよ。そんな事言うならたかが14歳の学生を抑えられず無茶をさせた俺の責任だ。あのとき、あの場所で『責任者』は俺だったんだから」
自分の力を過信した、そして14歳の少年(本当は少女だったが)の姿に見惚れ後手に回ってしまった俺の責任。今彼女にこんな思いをさせているのも俺の責任。
「俺はリド砦に来れてよかったと思ってる。警備隊隊長の方が楽しいぜ」
「……」
シダはオルガの胸に額をすりっと擦るように擦り寄せる。オルガからシダの顔は見えない。ぽんぽんと頭を撫でる。
「ほら、とっとと寝ちまえ」
女が治療師になれないのは能力の問題ではなく因習的な理由によるものです。
世界でも日本でも最初の女医さんが周りから認められ無かった。その処と同じ事情です。




