お医者さん(仮) 2
服を乾かし終わったので取り敢えず腹ごしらえをする事にした。今いる河原はかなり広い、ここならワイバーンが降りる事が出来る。このまま川沿いに進んだとして迎えのワイバーンが来た時に着地出来なければ意味が無い。
オルガが魚でもとるかと言うとシダが雷系の魔法を川面に落とす。すると痺れた魚がプカプカと浮き上がると言う寸法だ。便利だよなぁ、10年前に生徒会長だった少年がやった方法だ。
腹も一杯になったし疑問に思ってたことを聴く事にした。
「女が治療師になったって聞いたこと無いが、よくなれたよな」
治療師は男しかなれない、と言うのが世間の一般常識…つか過去女が治療師になったと言う話はついぞ聞いたことが無い。女は治療師になれないとされていた。もし女が治療師になったというなら国中、イヤ大陸中の注目事項だと思う。
「……なってない」
「へ?」
「なってない、治療師」
「なんで?お前治療師科主席じゃ無かったっけ」
「主席で卒業したけど治療師資格貰えなかった」
「……理由、聴いていいか?」
シダはしばらく焚き火の炎を眺めていた。
「家出して男のフリして名前変えて学院に入学した。卒業して資格貰ったら父様に女でも治療師に慣れるって証明しようと思った…」
「だから凄く頑張った、何度か女だってばれたかなって思ったこともあったけど無事卒業できて…」
「でも、父様は全部お見通しだった。『お前に資格はやらん、8年自由にさせた満足だろう』って言われた…」
「お前の父親って」
「ガイナス=オーベン=ザナスト、王宮治療師筆頭。私のホントの名前はシルダリア=フローティア=ザナスト」
「ザナスト公爵の…」
オルガは口をポカンと開けてしまった。
(シダ=フローティアって…そんな偽名すぐにバレるだろ、捻りが無いぞ、公爵の娘の名前を知ってたら誰でも気付くんじゃないか?それで入学出来たってほうがおかしくないか?)
突っ込みどころ満載だとは思うがあえてスルーした。
「あれ、待てよ、じゃなんでリド砦に赴任できた?」
シダは抱えた膝の上に顎を乗せた。ちらりと上目遣いでオルガを見るとまた炎に視線を戻す。
(クッ、こいつわざとか、その目線わざとなのか、煽るんじゃねえ)
「父様の書斎でオルガの手紙を見つけたの。でも父様、リドに治療師を送るつもりは無いって……
だから…その…命令書……偽造した」
「はあぁ、お前なにやって…」
「だっておかしいよ、王宮なんてろくに怪我する奴もいないのに大勢の治療師がいて…
魔物と戦う前線と言ってもいい砦に治療師を配属しないの、この国の治療師の在り方絶対間違ってる…」
(いや、そんなに瞳ウルウルされたら、俺もヤバイ)
「そうかもしれないが、偽造って」
「じゃあオルガは……迷惑…だった?」
勢い勇んで放たれた言葉は最後尻つぼみに小さく呟かれた。
「でももうそれも終わりだよ、父様から手紙が来た。此処にいることも最初っからばれてたみたい」
「そういやあ、お前宛にザナスト様から手紙来てたな」
「ん…」
パチパチと炎の爆ぜる音がいやに大きく耳に残った。
落ち込んでた原因が手紙だったのか。俺にはどうしてやることも出来ない。
「どうするんだ、これから」
「砦を出ようかと思う、ダリドにとどまれればいいと思うけど、此処に居ること父様にばれてるし…」
「王都に戻って親父さん説得してみたらどうだ」
「無理だね、あの人は昔から私の話を聴いてくれたこと無いもの」
「それにもどったら…嫁ぐことに…なってる。父様の手紙に式の日程が決まったって…」
嫁ぐ?嫁に行くのか?
「あ、あ、相手は?」
「手紙には書いて無かった」
「そ、そうか、書いて無かったか」
オルガはシダを見た。そりゃ綺麗だろうな。純白のドレス、肩は出して胸元はしっかり隠す、でも身体のラインがわかるようなピッタリしたやつがいい。いや胸の下からは透き通るような薄手の布を床に付くように、脚は見せないやつがいい。髪はアップにしてダイヤのティアラ…いや真珠のほうが似合うかも。髪全体に散りばめて薄いレースのベールを後ろに垂らしてだな…
「オルガ、鼻血出てるぞ」
「うおっと?」
慌てて鼻頭を抑える。自分に向かって赤い絨毯を歩いてくる姿を想像してしまいました。
(ヤバイ、ヤバすぎだ俺、なに想像してんだ)
オルガは慌てて立ち上がり、ついてない膝の汚れを払う。
「そろそろ寝場所つくらねえと、迎えは早くても明朝だろう。此処じゃ水に近すぎだ。崖際の風が避けられそうなところに行こう」
話題を無理矢理替えたオルガの指示に従うべく、シダも立ち上がった。
「なってない、治療師」
なので(仮)なんです。




