第2話 泣き虫パパと、急に喋りだした猫の件
おはようございます。
突然ですが、プロローグを少し書き足しました。
もし、お時間ありましたら目を通していただけるち幸いです。
仕事からの帰り道。
重い足取りで歩いていた剛は、自宅アパートの窓に明かりがついていることに気がついた。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
鍵を開け、勢いよく中へ滑り込んだ。
「あ、おかえりー」
アキが、カゴに入った洗濯物を運びながらひょっこりと顔を出す。
「アキ…! 帰ってきてくれたのか?」
「バアバがさあ、『お父さんが可哀想だから早く帰りなさい』って。あ、冷蔵庫にバアバが作ってくれた煮物が入ってるよ」
その言葉を聞いた瞬間、剛の頬を大粒の涙が伝い落ちた。
「ありがとう……ありがとう、アキ……っ」
「もう、帰ってきた早々泣くの勘弁してほしいんだけどー。まるで私が泣かせてるみたいじゃん」
深くため息をつきながら、アキは手際よく洗濯機を回し始める。
「ごめん、ごめんよ、アキ」
剛は慌てて涙を拭うと洗面所へ向かい、バシャバシャと冷水で顔を洗った。
タオルで顔を拭き、鏡を見る。そこには、昨日よりも少しだけホッとした表情をした自分の顔が映っていた。
「…これも、光里田さんのお守りのおかげなのかな」
剛はスラックスのポケットから、光里田にもらったブレスレットを取り出した。
リビングに戻り、冷蔵庫からバアバ特製の煮物が入った鍋を取り出す。
「アキー、ご飯はー?」
「バアバの家で食べてきたからいらなーい」
「そっか」
コンロに火をつけ、煮物を温め直す。不意に、足元に愛猫のテンが寄ってきた。
「テンちゃん、危ないって! また煮物の出汁かぶっちゃうよ?」
テンは「ニャッ」と短く鳴いた。それがどうした?、とでも言いたげな、堂々とした態度だ。
剛は温まった煮物を皿に移すと、そのまま箸をつけて口に運んだ。
「…うまい」
懐かしく優しい出汁の味が、疲れた身体と心にじんわりと染み渡っていく。
すると、アキがドアからひょこっと顔を出した。
「お父さん、バアバの煮物好きだもんねー。バアバ、昨日一生懸命作ってくれてたよ」
こんな情けない俺のために、また目頭が熱くなるが、父親が泣いてばかりではいけないと、剛は必死に頭を振って涙をこらえた。少しでも明るい話題を振ろうと、ポケットから例のブレスレットを取り出す。
「あ、そうだ。アキ、ちょっと見てほしいものがあるんだけど」
「なにー? ウチ、これからアキラジイジの円谷英二特選DVDコレクションを見ようと思ってたんだけどなあ」
小学三年生とは思えない渋すぎるセリフだったが、アキのオタク化の原因について合点がいった。
ジイジこと、神原明は昨年亡くなったのだが、生前は大の特撮マニアだった。剛には価値の分からない大量のガラクタをアキが遺品整理のときに喜んで貰っていたのを思い出す。
剛はブレスレットをアキの前に差し出した。
「これこれ。今日、アキのことを話したら、利用者さんがくれたんだよ」
「ちょっと、外で勝手に私のこと話さないでよねー…って、なにこれ?」
文句を言いつつも、アキはブレスレットにじっと見つめる。
その少し身を乗り出すような仕草を見て、なんだかんだいってやっぱり子供だな、としみじみ思っていると剛の目から不意に、涙がポロリとこぼれ落ちた。
その涙はブレスレットの中央にある石の上にまっすぐ命中する。
「え?」
石が微かに震えたかと思うと、石から蛍光灯の光を完全に掻き消すほどの、凄まじい光が溢れ出し、部屋全体を包み込む。
「うわっ!?」
「な、なにこれ!?」
眩い光は不意に収まった。
剛は思わず両手で顔を覆っていたが、恐る恐る目を開けるとキョロキョロと辺りを見回した。
目の前では、アキも同じように光を遮るよう腕で顔を覆っている。しかし、リビングの壁紙も家具も元のままだ。ブレスレットの石もすでに光を失っており、形が変わった様子もない。
剛は、張り詰めていた肩の力を抜いてほっと胸をなで下ろした。
「アキ、もう大丈夫だぞ。石も光ってない」
「ほんと…?」
アキは恐る恐る腕を退け、目をあける。
「ほんとだ……」
「一体なんだったんだろうなあ? まあ、とりあえず何ともなくて良かったよ」
「アタイは良くないニャ」
不意に部屋に響いた低い不気味な声に、剛とアキは同時にピキリと固まった。
リビングには、剛とアキの二人しかいない。はずだ。
「お、おばけ……っ!?」
アキの顔からみるみる血の気が引いていく。
「剛、何おもちゃで遊んでるニャ。まぶしくて目がつぶれるかと思ったニャ」
再び聞こえた声に、剛はゾワリと鳥肌が立つのを感じた。慌ててアキを自分の背中に庇うと、油断なくあたりを見回す。
「もしかして、姿が見えないタイプのお化け!?」
アキは剛の背中にがっしりと隠れながら、足元の床に置いてあったプラスチックの洗濯カゴを拾い上げ、ヘルメット代わりに頭からスッポリとかぶった。
「剛、アキ、さっきから何遊んでるニャ? さっさとあたいのご飯出すニャ」
「…ごはん?」
洗濯カゴの隙間から目をキョロつかせていたアキが、その言葉の違和感に気がついた。
「もしかして…」
アキはガサゴソとカゴを脱ぎ捨てると、急に四つん這いになってダイニングテーブルの下へと潜り込んだ。
「お父さん、ちょっと見て」
「アキ、危ないから戻って! 今はそれどころじゃ…」
「いいから見てってば!」
剛が言われるがままにテーブルの下を覗き込むと、アキが愛猫のテンを無理やり両腕で抱っこしていた。
普段から抱っこが大嫌いなテンは、手足をバタつかせて大暴れしている。
「アタイは抱っこが大嫌いだと言ってるニャ! アキ、離すニャ!」
「ひゃああっ!?」
剛は飛び上がって後ろにひっくり返りそうになった。テンが人間の言葉を喋っていたのだ。
数分後。親子は、テーブルの真ん中にちょこんと座る愛猫と、真剣な顔で向かい合っていた。
「…つまり、さっきのあの光を浴びたから、人間の言葉が話せるようになった、と」
剛が恐る恐る確認すると、テンは面倒くさそうに前足を舐めた。
「あたいはずっと前から話してるニャ。お前たちが気づかなかっただけニャ」
「うわあ、テンちゃんが喋るとややこしいから、とりあえずこれ食べてて」
アキが戸棚からキャットチューブを絞り出すと、テンの目がキランと輝いた。
「うまいニャ! うまいニャ!」
テンはそれまでの偉そうな態度を一変させ、テーブルの上で夢中になってジェルを舐め始めた。猫は猫であった。
「お父さん、さっきのブレスレット、本当になんなの?」
「お父さんも詳しいことは…アキも分からないか?」
アキはうーんと腕を組んだ。
「どこかで見たことはあるんだけど…あ、そうだ!」
アキは急に閃いた顔をすると、リビングを飛び出して自分の部屋へと駆け込む。そして、一冊の分厚いファイルを持って戻ってきた。
黒い革表紙の、いかにも年季の入った古いスクラップブックだ
「アキ、それは?」
「ジイジ特製のプリズマンスクラップブック!」
アキはペラペラとページをめくると、あるページに貼り付けられていた古いモノクロ写真をビシッと指さした。そこには、先ほど光里田からもらったものと全く同じデザインのブレスレットが写っていた。
「…何これ?」
剛が顔を近づけて尋ねると、アキは鋭い眼光で剛を見上げ言った。
「プリズ厶ブレスレット。光の戦士『プリズマン』の変身アイテムだよ」
「んんん???」
剛は意味が分からず、ただ困惑の声を上げるしかなかった。
実はタイトルも変えました。
正直、何がいいかチンプンカンプンですが、書き続けていくつもりであう。
来週も金曜日に更新予定です。
よろしくお願いします。




