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レン  作者: 丸鶴
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乃東のとなり

夏のはじまりの日だった。

レンは庭に出ていた。

学校でもらったヒマワリの種を植えるためだ。

ポケットの中で、小さな種の袋がかさりと鳴った。

レンは庭の隅を見て回った。

けれど、空いているプランターはなかなか見つからない。

トマト。

イチゴ。

ネギ。

みんな誰かの場所を持っている。

太陽はまっすぐ頭の上にいて、地面は白く光っていた。

レンはふうっと息をついた。

「どこかにないかなあ」

草むらの向こうに、ひとつだけ古いプランターが見えた。

近づいてみると、葉っぱは青いのに、その上の花だけが茶色くなっている。

まるで枯れてしまったみたいだった。

レンは指でつついてみた。

かさり。

軽い音がした。

「これなら使えるかも」

縁側には、おじいちゃんがいた。

うちわをぱたぱた動かしている。

レンはプランターを指さした。

「ねえ、その草、もう終わったんだよね?」

おじいちゃんは立ち上がり、ゆっくりやって来た。

そして笑った。

「終わってないぞ」

「だって茶色だよ」

「そう見えるだけだ」

レンはもう一度プランターを見た。

やっぱり茶色だった。

どう見ても元気には見えない。

「これ、なんていう草?」

「乃東」

「だいとう?」

聞いたことのない名前だった。

「ウツボグサともいう」

「変な名前」

「変な草でもある」

おじいちゃんは花穂をそっとつまんだ。

「こいつはな、夏になると眠そうな顔をする」

「夏なのに?」

「そう。みんな元気になるころにな」

レンはますますわからなくなった。

トマトは元気だ。

イチゴも元気だ。

庭の草だって伸びている。

どうしてこの草だけ逆なのだろう。

おじいちゃんはレンの顔を見て笑った。

「おまえみたいだな」

「えっ?」

「朝、起こしてもなかなか起きない」

「それは休みの日だけ!」

レンは思わず声を上げた。

おじいちゃんは声を立てて笑った。

その笑い声につられて、レンも笑った。

すると、なんだか急に元気が出てきた。

「ヒマワリ植えたいんだ」

「そうか」

おじいちゃんは物置へ向かった。

しばらくして、新しいプランターを抱えて戻ってくる。

「これを使え」

「いいの?」

「もちろんだ」

レンは土を入れた。

指で穴を作った。

ヒマワリの種を一粒。

もう一粒。

そっと並べる。

土をかぶせて、水をやる。

黒い土がきらりと光った。

「早く芽が出ないかな」

「そう急ぐな」

おじいちゃんは言った。

「植物には植物の時間がある」

レンはうなずいた。

それでも明日の朝には芽が出る気がした。

夕方になると、風が少し涼しくなった。

レンは二つのプランターを並べた。

ひとつは今日植えたヒマワリ。

もうひとつは乃東。

ヒマワリはこれから空へ向かって伸びていく。

乃東は眠る準備をしている。

正反対みたいだった。

レンはしゃがみこんで見比べた。

「変な草だなあ」

乃東は何も答えなかった。

茶色い穂を揺らしながら、ただ静かに風に吹かれていた。

そのとなりで、まだ見えないヒマワリの種もまた、静かに夏を待っていた。


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