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レン  作者: 丸鶴
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3/15

夏至の庭

レンは学校からの帰り道、ランドセルの肩ひもを少しだけ引き上げた。

その日の授業では、先生が黒板いっぱいに太陽の通り道を描いていた。

「一年でいちばん昼が長い日。それが夏至です」

先生の言葉を思い出しながら、レンは家の門をくぐった。

空はまだ高く、夕方なのに日が沈ぐ気配は遠い。

「昼が長いっていってもなあ」

レンはつぶやいた。

毎年やってくる季節の話だ。聞いたときは少し面白かったけれど、家に着くころにはもう半分くらい頭からこぼれていた。

庭の隅には、見慣れた日陰がある。

古い塀と物置にはさまれたその場所は、いつもひんやりしていて、夕方になるとすぐ影に沈む。

レンは何となくそちらを見た。

すると足が止まった。

「……あれ?」

影になっているはずの地面が、薄い金色に染まっていた。

西から伸びてきた光が、細い帯になって塀のすき間を抜けている。

レンは目を細めた。

昨日もこうだっただろうか。

おとといは。

その前は。

思い出そうとしても、どうにもはっきりしない。

風が吹き、草がさらさらと揺れた。

光もいっしょに揺れているように見えた。

レンは庭へ降りた。

一歩。

また一歩。

いつもなら近づかない場所なのに、なぜだか足が向く。

近づくほど、金色の帯は細く見えた。

その先で何かが光っている。

レンはしゃがみこんだ。

「えっ」

思わず声が漏れた。

そこには路地植えのイチゴがあった。

春の終わりごろから元気がなくなり、葉も縮れていた株だ。

ところが今は違う。

新しい葉が何枚も顔を出し、夕日に透けて緑色の縁がきらきらしていた。

まるで長いあいだ待っていたものを見つけたみたいに。

レンはそっと葉に触れた。

温かかった。

「ここに光が来てたんだ」

授業の黒板がふいによみがえる。

太陽の通り道。

昼の長さ。

夏至。

レンは立ち上がり、塀と太陽を交互に見た。

すると気づいた。

光はまっすぐ差しているのではない。

一年の中でも今だけ届く角度で、ぎりぎりここへ入りこんでいるのだ。

「だからか!」

レンの声が庭に響いた。

急に世界のあちこちがつながった気がした。

教室の黒板と、家の庭と、この小さなイチゴ。

全部が一本の線で結ばれている。

レンは庭を走って家の中へ向かった。

「お母さん! 見て!」

玄関の戸を勢いよく開ける。

「どうしたの?」

「イチゴ! あのイチゴ!」

言葉が先へ先へ飛び出して、うまく説明にならない。

それでもお母さんは笑いながら庭へ出てきた。

二人で並んで例の場所を見る。

西日は少しずつ傾いていた。

金色の帯もゆっくり細くなっていく。

「ほんとだ。元気になってるね」

「今日だけ光が届いてるんだよ、たぶん!」

レンはそう言った。

けれど、その声はさっきよりずっと小さかった。

光が少しずつほどけるように消えていくのを見ていると、不思議と急ぐ気持ちも静まっていく。

葉っぱは風に揺れた。

まるで「ちゃんと届いたよ」と返事をしているみたいだった。

空にはまだ明るさが残っている。

一年でいちばん長い昼は、ゆっくりと夕方へ溶けていった。

レンはその場にしゃがみ、イチゴを眺めた。

明日になれば、また光の角度は少し変わるだろう。

それでも今日ここに差しこんだ西日は、きっとイチゴもレンも忘れない。

庭には風の音だけが流れていた。

その音を聞きながら、レンはしばらく何も言わずに座っていた。

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