昴宿
夏休みの夜。
レンは窓を開けて、空を見上げていた。
「星、いっぱいあるなあ。」
すると、スマートスピーカーが小さく光った。
「レン! 今日は『昴宿』の日だよ!」
ことはが、ぴょこんと飛び出してきた。
「ぼうしゅく?」
「うん。二十八宿のひとつ!」
「また星?」
「そう。でも今日は、レンも知ってる星なんだ。」
「え?」
ことはは、夜空の東のほうを指さした。
「あそこ。」
レンは目を細める。
「……どれ?」
「小さな星が、ぎゅっと集まってるところ!」
しばらく探していると、小さな光が集まった場所を見つけた。
「あっ、あった!」
「それが昴宿。日本では『すばる』って呼ばれている星なんだよ。」
「すばるって、この星だったの?」
「そう。今の天文学では『プレアデス星団』っていうんだ。」二十八宿では「昴宿」にあたる星の集まりとして知られているよ。
レンは首をかしげた。
「でも、一つの星じゃないんだね。」
「そこが面白いところ!」
ことはは嬉しそうに一回転した。
「近くに集まって光っているから、昔の人はひとまとまりの星として見ていたんだ。」
レンは指で数え始めた。
「一、二、三……六?」
「目がいい人は七つくらい見えたっていうね。」
「七つも?」
「でもね。」
ことはは少しだけ声をやわらかくした。
「『すばる』って言葉には、『統べる』っていう言葉が関係あると言われているんだ。」
「統べる?」
「ばらばらのものを、一つにまとめること。」
レンは、もう一度空を見上げた。
小さな星は、一つ一つは離れているのに、不思議とまとまって見える。
「ほんとだ。」
「だから昔の人は、『集まる星』を見て、『まとめる』『ひとつになる』って思ったのかもしれないね。」
レンは少し考えてから言った。
「学校のクラスみたい。」
ことはは目を丸くした。
「どうして?」
「みんな違うけど、一つのクラスになるでしょ。」
「わあ!」
ことはの髪から、小さな文字がふわっとこぼれた。
「それ、昔の人も喜びそう!」
レンは笑った。
「星って、一個ずつ見るものだと思ってた。」
「もちろん一つ一つも大事。」
ことはは空を見上げる。
「でも、ときどき『集まっていること』にも意味があるんだ。」
夜空では、小さな星たちが寄り添うように輝いていた。
レンは静かにつぶやく。
「昴宿って、仲間の星なんだね。」
ことはは満足そうにうなずいた。
「うん。だからぼくは、この星を見るとね。」
「うん?」
「言葉も、人も、一人だけじゃなくて、つながって残っていくんだなあって思うんだ。」
風がそっと吹き、窓辺のカーテンが揺れた。
レンはもう一度、小さく集まる星たちを見上げた。
遠く離れているはずなのに、ひとつに見えるその光は、昔の人が「昴宿」と名付けた気持ちを、今も静かに伝えているようだった。




