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レン  作者: 丸鶴
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土用の丑の日

「お母さん、なんで今日はウナギがいっぱいあるの?」

スーパーの魚売り場で、レンは思わず立ち止まった。

いつもは端っこのほうに少しだけ並んでいるウナギが、今日は山のように積まれている。

「今日は土用の丑の日だからね。」

お母さんはそう言って、迷わず一つを買い物かごに入れた。

「えっ。」

レンは目を丸くした。

(うそでしょ。)

レンはウナギが苦手だった。

つるつるしていて、なんだかへびみたいだからだ。

お母さんがお菓子売り場のほうを向いたすきに、レンはそっとかごの中をのぞいた。

(今なら……。)

ウナギを取り出して、元の棚へ戻す。

「ふう。」

誰にも見つからなかった。

レンは何事もなかったように、お菓子売り場へ歩いていった。


夕方。

「いただきます。」

食卓を見たレンは固まった。

「えっ!?」

お皿の上には、しっかりウナギがのっている。

「どうしたの?」

お母さんが笑う。

「……あれ?」

レンは首をかしげた。

「スーパーで戻したよね……。」

「戻した?」

お母さんは少し考えてから、くすっと笑った。

「同じのをもう一つ取ったから気づかなかったわ。」

レンは思わず顔を赤くした。

「そうだったの……。」

おじいちゃんが笑いながら言う。

「今日は土用の丑の日だからなあ。」

そう言って、おいしそうにウナギを食べ始めた。

レンは小さくため息をつく。

箸でウナギを少しずつ押して、ご飯の下へ隠した。

見えなければ、少しは食べやすい気がした。

「ねえ、おじいちゃん。」

「ん?」

「土用の丑って何?」

おじいちゃんはお茶をひと口飲んでから話し始めた。

「まずな、『土用』っていうのは、季節が変わる前の特別な期間なんだ。」

レンは首をかしげる。

「春も夏も秋も冬も、それぞれ始まる前に土用がある。」

「えっ。夏だけじゃないの?」

「そう。夏だけじゃない。」

「へえ。」

「そして『丑の日』はね。」

おじいちゃんは指を二本立てた。

「昔は日にちを、一日、二日じゃなくて、子、丑、寅、卯……という十二の名前で順番につけていたんだ。」

「えっと……ネズミとウシ?」

「そうそう。十二支は年だけじゃなくて、日にも使っていたんだよ。」

レンは少し考える。

「じゃあ、丑の日って、ウシの日?」

「その通り。十二日に一回くらい回ってくる。」

「えー。」

「だから土用の間に丑の日が一回だけの年もあるし、二回ある年もある。」

レンはさらに首をかしげた。

「えっと……土用があって、その中に丑の日があって……でも丑の日は何回も来て……。」

「そういうこと。」

「……。」

レンは黙った。

「わかったか?」

「ぜんぜん。」

おじいちゃんは大笑いした。

「そうだろうなあ。大人でもややこしいから。」

レンもつられて笑った。

「でもね。」

おじいちゃんは少しだけ声をやわらかくした。

「昔の人は、暑い夏を元気に乗り切れるようにって、この日に栄養のあるものを食べようと考えたんだ。」

「だからウナギ?」

「そういうこと。」

レンはご飯の下に隠れているウナギを、ちらりと見た。

「……じゃあ、一口だけ。」

「お、それで十分。」

おじいちゃんがうなずく。

レンはそっと小さく切って口に入れた。

「……あれ。」

「どうした?」

「思ったより、へびじゃなかった。」

「最初からへびじゃないぞ。」

お父さんが笑うと、食卓のみんなも笑った。

外では、夏の夕焼けがゆっくりと薄れていく。

「土用の丑の日。」

まだ少し難しい言葉だったけれど、その日は「暑い夏を元気に過ごしてね」という、昔の人の願いが込められた日なのだと、レンはなんとなく覚えた。


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