若鷹
「お父さん! あれ見て!」
お出かけの帰り道。
大きな橋を車で渡っていると、レンは窓の外を指さしました。
青い空を、大きな鳥がくるりと輪をえがいて飛んでいます。
「タカだよ!」
お父さんは前を見ながら言いました。
「え? どこどこ?」
レンがあわてて指をさします。
「あそこ!」
「あー……見えたような、見えなかったような。もう遠くへ行っちゃったね。」
車はそのまま橋を渡っていきました。
「かっこよかったなあ。」
レンは、空を飛ぶ大きな鳥を思い出しながら家へ帰りました。
* * *
夕方。
「ことはー!」
本を開くと、ことはがふわりと現れました。
「今日はね、大きなタカを見たんだ!」
ことははにこっと笑います。
「そうなんだ。もしかしたら、**若鷹**だったのかもしれないね。」
「若鷹?」
「うん。まだ若いタカのことだよ。」
「へえ!」
「それにね、『若鷹』は、人にも使う言葉なんだ。」
「人にも?」
「元気いっぱいで、これから大きく羽ばたいていく人のことを、『若鷹』ってたとえることがあるんだよ。」
レンは少し胸を張りました。
「じゃあ、ぼくも若鷹になれる?」
「もちろん。いろんなことを学んで、少しずつ大きくなっていけばね。」
ことはは、空へ羽ばたくように両手を広げました。
「若鷹は、未来へ飛んでいく鳥なんだ。」
レンもまねをして、腕を大きく広げます。
「ビューン!」
二人は声を立てて笑いました。
* * *
晩ご飯のとき。
レンはうれしそうに話しました。
「今日ね、橋のところで若鷹を見たんだ!」
お父さんは笑いながら首をかしげます。
「若鷹かあ。もしかすると、タカじゃなくて**鳶**だったかもしれないね。」
「えっ?」
「橋や川の近くでは、鳶が上昇気流に乗って大きく輪を描いて飛んでいることが多いんだよ。町の近くでもよく見かけるしね。」
「そうなんだ。」
「タカは山や森で見かけることが多いから、この辺なら鳶のほうが見つかりやすいかな。」
レンは少し考えてから笑いました。
「じゃあ、今日見たのは若鳶だったのかな。」
お父さんも笑います。
「そうかもしれないね。」
その様子を見ていたお母さんも、くすっと笑いました。
レンは窓の外を見上げます。
今日見た大きな鳥は、タカだったのか、鳶だったのか。
本当のことはわからない。
でも、大きく翼を広げて空を舞う姿は、とてもかっこよかった。
レンは心の中で、もう一度だけつぶやきました。
「ぼくも、いつか空を飛ぶみたいに、大きくなりたいな。」




