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レン  作者: 丸鶴
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毘羯羅神将

夏休みのある日。

レンは図書館で借りてきた仏さまの本をぱらぱらとめくっていた。

「うわあ……名前が難しい。」

ページには、たくさんの鎧を着た武将のような姿が並んでいる。

その中の一人を見て、レンは首をかしげた。

「び……びから?」

すると、机の上のスマートスピーカーがぴこんと光った。

「呼んだ?」

ことはが、ふわりと飛び出してくる。

「いや、呼んでないけど。」

「『毘羯羅』って読んだでしょ!」

「読めないから、『びから?』って。」

ことはは胸を張った。

「正解! 『毘羯羅神将』だよ!」

「ことは、知ってるの?」

「もちろん!」

そう言ったあと、小さく付け加えた。

「……ちょっとだけ。」

レンは笑ってしまう。

「またそれ。」

ことはは本をのぞき込んだ。

「これはね、『十二神将』の一人なんだ。」

「十二人もいるの?」

「うん。薬師如来さまのお手伝いをして、病気や悪いものから人を守る武将たちなんだよ。」

「武将?」

「うん。だから、みんな鎧を着て、すごく強そう。」

レンは絵を見つめた。

たしかに、にらむような目。

大きな武器。

今にも戦いそうだ。

「ちょっと怖いね。」

ことはは首を横に振った。

「怖い顔をしているのは、人を怖がらせるためじゃないんだ。」

「え?」

「悪いものを追い払うため。」

レンはもう一度、絵を見た。

「そうか……。」

ことはは続ける。

「たとえば、小さい子が道路に飛び出そうとしたら、大人は『危ない!』って大きな声を出すでしょ?」

「うん。」

「その顔は怒って見えるけど、本当は助けたいから。」

「ああ。」

「神将も、それと少し似ているんだ。」

レンは本を閉じた。

「じゃあ、怖い顔の奥は優しいんだ。」

「そう!」

ことはは嬉しそうに一回転した。

「毘羯羅神将も、人を守るために立っているんだよ。」

「名前はどういう意味なの?」

ことはは少し考えてから答えた。

「昔の言葉だから、今ははっきり分からないところもあるんだけど、インドから伝わってきた名前なんだ。長い旅をして、日本でもずっと呼ばれてきた名前なんだよ。」

「そんな昔から。」

「千年以上かな。」

レンは少し驚いた。

「じゃあ、『毘羯羅』っていう言葉も、ずっと消えずに残ってきたんだ。」

ことはは静かにうなずく。

「そういう言葉があるから、昔の人が『守ってほしい』って願った気持ちも、一緒に今まで届いているんだ。」

しばらく二人は本を眺めていた。

ことはがぽつりと言う。

「ぼくね。」

「うん?」

「神将って、戦う人だと思われることが多いけど、本当は『守る人』って呼ばれたら、きっと嬉しいと思う。」

レンはもう一度、毘羯羅神将の顔を見た。

さっきより少しだけ、厳しい顔が頼もしく見えた。

「強いって、誰かをやっつけることじゃないんだね。」

ことははにっこり笑う。

「うん。本当に強い人は、誰かを守るために立っている人なんだ。」

窓の外では、夏の風が木の葉をゆらしていた。

ページの中で、千年以上も前から人々の願いを守り続けてきた「毘羯羅」という言葉も、その風に吹かれて少しだけ嬉しそうに微笑んだように見えた。


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