婁宿
夕ごはんを食べ終わったレンは、机の上に広げた暦をのぞきこんでいた。
「ええと……今日は『婁宿』?」
最近は、〇宿を見つけるたびに、ことはを呼ぶのが楽しみになっている。
「ことはー!」
スマートスピーカーが、ぴこん、と光った。
「はーい!」
ふわっと文字をこぼしながら、小さな妖精が飛び出してくる。
「今日は婁宿だよ。」
「おっ、見つけたね!」
ことはは胸を張った。
「奎宿の次だね。」
「そうそう!」
レンは思い出した。
「奎宿は、本を読んだり勉強したりするのにいい日って言ってたよね。」
「うん。そして、その次が婁宿。」
ことはは空中でくるりと回った。
「ねえ、『婁』ってどんな意味だと思う?」
レンは字をじっと見つめる。
「……羊?」
「惜しい!」
「え?」
「実はね、この宿は今のおひつじ座あたりの星につながるんだ。」
「じゃあ、当たりじゃない?」
「半分ね。」
ことはは笑って続けた。
「『婁』という字には、人やものが集まる、つながる、という意味があると言われているんだ。」
「集まる?」
「うん。一人じゃなくて、みんなで力を合わせるイメージ。」
レンは少し考えた。
「学校の掃除みたい?」
「そうそう!」
ことはは手をぱちんとたたく。
「一人で教室をきれいにするのは大変。でも、みんなでやると、あっという間でしょう?」
「たしかに。」
「運動会も、文化祭も、お祭りもそう。」
「一人じゃできないね。」
ことははうれしそうにうなずいた。
「昔の人はね、一人で生きるより、助け合って暮らすことのほうがずっと多かったんだ。」
「田植えも?」
「うん。」
「家を建てるのも?」
「そう。」
「だから、人が集まることそのものが、とても大切だったんだよ。」
レンは窓の外を見た。
向かいの家では、おじいさんと小さな男の子が一緒に庭の草取りをしている。
「ほんとだ。」
ぽつりとつぶやく。
「二人だと楽しそう。」
ことはも外を見つめた。
「昔の言葉にはね、『一人でがんばれ』より、『一緒にやろう』っていう気持ちがたくさん残っているんだ。」
「だから婁宿なんだ。」
「そう。」
ことはは少し照れくさそうに笑った。
「星を見るだけじゃなくて、人と人のつながりも思い出してほしかったのかもしれないね。」
レンは暦の「婁宿」の文字を、もう一度見た。
朝はただの難しい漢字だった。
でも今は、小さな文字の向こうに、畑で笑い合う人たちや、お祭りを準備する人たち、学校で机を運ぶ友達の姿まで見える気がした。
「ことは。」
「なあに?」
「今度の町内のお祭り、準備を手伝ってみようかな。」
ことはの髪から、ふわりと文字が舞い上がる。
「それはきっと、婁宿もにっこりするね。」
窓の外では、夏の夜空に小さな星が静かに光っていた。
その星は、一つだけでもきれいだったけれど、たくさん集まると、昔の人が宿の名前を付けたくなるほど、もっと美しく見えた。




