夏の蝉
朝の日差しはまぶしくて、お空は青く晴れていました。
「レン、お出かけするぞ。」
お父さんに呼ばれて、レンは玄関へ向かいました。
そのときでした。
ジジジジジジ……。
どこからか大きな声が聞こえてきます。
お父さんは空を見上げて言いました。
「うわ、とうとうセミが鳴きだしたか。うるさいなー。」
レンは耳をぴくっと動かしました。
「セミ?」
今まで気づかなかった音です。
あちこちから鳴き声が聞こえてきます。
レンは木を見上げました。
「どこ? どこにいるの?」
でも、葉っぱばかりで見つかりません。
「探したい!」
レンは木の近くまで行こうとしました。
すると、お父さんが笑って言いました。
「帰ってきたら探そう。今日は先に出かけよう。」
レンは少しだけ残念そうに車へ乗りました。
車がゆっくり走り始めます。
外では、まだセミが元気に鳴いていました。
レンは窓の外を見ながら聞きました。
「セミって、なんであんなに鳴くの?」
お父さんは運転しながら話し始めました。
「オスのセミはね、お嫁さんを見つけるために鳴くんだ。」
「えっ、そうなの?」
レンは少し驚きました。
「それに、土の中で何年も暮らして、大人になると夏だけ外へ出てくるんだよ。」
「何年も?」
レンは信じられない気持ちになりました。
「そんなに長く土の中にいるの?」
「そうなんだ。やっと外へ出て、木につかまって羽を広げるんだ。」
レンは窓の外の木を見つめました。
さっきまでうるさいと思っていた鳴き声が、少し違って聞こえます。
「長い間がんばってたんだね。」
お父さんはうなずきました。
「だから夏になると、一生けんめい鳴くんだ。」
その話を聞いていると、急に大きな鳴き声が聞こえました。
**ミーン! ミーン!**
「わっ!」
レンはびっくりして窓の外を探します。
「あっちかな?」
「いや、こっちかも!」
鳴き声はいろいろな場所から聞こえてきて、どこにいるのかわかりません。
「セミって、かくれんぼが上手なんだね。」
レンはきょろきょろ見回しました。
すると、お父さんが笑いました。
「そうそう。鳴いているのに、見つけるのは難しいんだ。」
レンも思わず笑いました。
「帰ったら絶対に見つけたい!」
車の中は、いつの間にか楽しい話でいっぱいになっていました。
「セミにもいろんな種類がいるんだよ。」
「名前も違うの?」
「鳴き声も違うよ。」
レンはますます知りたくなりました。
「ぼく、聞き分けられるようになりたい!」
お父さんはうれしそうに言いました。
「じゃあ、帰ったら一緒に探そう。」
「うん!」
お出かけが終わるころには、レンはセミに会うのが楽しみでたまりませんでした。
家に帰ると、また木の上から元気な声が聞こえてきます。
**ジジジジジ……。**
レンは耳をすませました。
「さっきより、いい声に聞こえる。」
お父さんは笑顔でうなずきます。
「夏だから聞ける声なんだ。」
レンも笑顔になりました。
暑い夏の日。
木の上では今日も、小さな命が一生けんめい歌っていました。




