奎宿
レンは机の上に広げた暦をじっと見つめていた。
「……あった!」
そう言うと、スマートスピーカーに向かって大きな声を出す。
「ことはー! 今日はぼくから問題!」
ぽん、と小さな文字が舞って、ことはが現れた。
「えっ? レンから?」
「この字、読める?」
レンが指さしたのは、「奎宿」という文字だった。
ことはは胸を張る。
「もちろん! 『けいしゅく』!」
「やった! 読めた!」
「むむっ。ぼくを試したな?」
ことははぷくっとほっぺをふくらませた。
「だって、この前、危宿とか室宿とか教えてもらったでしょ。だから今度は自分で暦を見てみたんだ。」
「えらいえらい!」
ことはは満足そうにうなずいた。
「でもね、奎宿を知るには、その前に少しだけお空のお話をしよう。」
「星座の話?」
「そう!」
ことはは指をくるりと回すと、小さな夜空がふわっと広がった。
「昔の人は、今みたいに『しし座』『みずがめ座』『うお座』みたいな十二星座で空を見る考え方も知っていたんだ。でも、それとは別に、もっと細かく二十八個に分ける方法も使っていたんだよ。」
「二十八個?」
「それが『二十八宿』!」
夜空に二十八の小さな区切りが現れる。
「月は毎日少しずつ空を動いていくでしょ?」
「うん。毎日ちょっとずつ場所が変わる。」
「だから昔の人は、『今日は月がどの星のあたりにいるかな』を目印にして、日にちや季節、それから方角なんかを考えていたんだ。」
「時計やカレンダーがない時代だから?」
「その通り!」
ことははうれしそうにくるりと一回転した。
「その二十八宿の一つが『奎宿』。今の星座でいうと、だいたいアンドロメダ座やうお座のあたりにある星のグループなんだよ。」
「へぇ。同じ空でも、分け方が違うんだ。」
「そうなんだ。見る目的が違うと、分け方も変わるんだね。」
レンは夜空を見上げるように天井を見た。
「それで、奎宿ってどんな宿なの?」
ことはは少し声を弾ませる。
「奎宿はね、『文章をつかさどる星』って言われているんだ。」
「文章?」
「昔の中国では、字を書いたり、本を作ったり、学問をしたりすることと深い関わりがある星だと考えられていたんだよ。」
「じゃあ、本を書く人とか、お勉強する人にはぴったり?」
「うん。言葉を大事にする星なんだ。」
ことははそう言って、自分の髪からこぼれる小さな文字を両手ですくった。
「ぼく、なんだか奎宿は好きだなあ。」
「ことはは言葉の妖精だもんね。」
「えへへ。」
照れたように笑うと、文字たちはふわりと宙へ舞い上がる。
レンはもう一度暦の「奎宿」の文字を見つめた。
「文章を大事にする星か。」
そうつぶやいて、机の上の読書ノートを開く。
今日も一ページ。
書いた言葉は、小さな種みたいに、未来へ残っていくのかもしれない。




