そうめん
昼下がり。
外では、じりじりと夏の日差しが照りつけていた。
「いただきまーす!」
レンはつるつると白いめんをすすった。
「やっぱり夏は、そうめんだよね。」
そのとき、スマートスピーカーがぴこん、と光った。
「レンー!」
小さな妖精、ことはが飛び出してきた。
「なに食べてるの?」
「そうめん。」
すると、ことはは目をきらっとさせた。
「そうびんかー!」
レンは首をかしげる。
「……なんか違ってない? それ。」
「違わないよ。もともとは『索餅』って書いて、そうびんって呼ばれてたんだ。」
「そうびん?」
「うん。ずーっと昔、中国から伝わってきた食べ物なんだ。今のそうめんのおじいちゃんみたいなものかな。」
「へえ。でも餅って言うくらいだから、お正月のお餅みたいなの?」
ことはは、うんうんとうなずいた。
「昔はね、もちもちしたものをまとめて『餅』って呼ぶことが多かったんだ。」
「えっ?」
「だから、お餅だけじゃないよ。うどんも、そうめんも、まんじゅうも。みーんな餅の仲間だったことがあるんだ。」
レンは思わず箸を止めた。
「うどんまで?」
「そうそう。」
「まんじゅうも?」
「そうそう。」
「じゃあ、お餅だけ特別じゃなかったんだ。」
「そのころはね。」
レンはそうめんを一本持ち上げて、じっと見つめた。
「でも今は、そうめんはそうめんだよね。」
「うん。」
ことははにっこり笑った。
「言葉ってね、人が使っているうちに少しずつ育つんだ。」
「育つ?」
「新しい意味が増えたり、古い意味が残ったり。人が暮らしていると、言葉も一緒に暮らしているんだよ。」
レンは少し考えて言った。
「じゃあ、『索餅』って言わないとダメなの?」
「ううん!」
ことははぶんぶん首を振った。
「みんなにお話しするときは、『そうめん』でいいんだよ。」
「え?」
「だって、『索餅』は昔すぎて、知らない人がほとんどだからね。」
「ことは、さっき自慢げに言ってたじゃん。」
「えへへ。」
照れたように頭をかく。
「ぼくは古い言葉が大好きだから。」
「じゃあ、おじいちゃんに『索餅』って言ったら?」
ことははぱっと笑顔になった。
「おじいちゃんなら大丈夫!」
「どうして?」
「おじいちゃんは、たくさん言葉を持っているから。」
「たくさん?」
「昔の言葉も、新しい言葉も、いろんな言葉を知っている人は、それだけいろんな時代の人とおしゃべりできるんだ。」
レンは少しうれしそうに笑った。
「じゃあ、おじいちゃんって、言葉持ちなんだ。」
「うん! ぼく、おじいちゃん大好き!」
そう言うと、ことははふわりと空へ舞い上がった。
「古い言葉が残るとね。」
「うん。」
「昔の人が『これ、おいしいね』って笑っていた声まで、ちょっぴり聞こえる気がするんだ。」
レンはもう一口、そうめんをすすった。
つるり。
いつものそうめん。
でも、そのずっと昔には、「索餅」と呼ばれていた時代があった。
名前は変わっても、おいしいと思う気持ちは、きっと変わらない。
レンはそう思いながら、最後の一本まで、つるつると味わった。




