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レン  作者: 丸鶴
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19/29

そうめん

昼下がり。

外では、じりじりと夏の日差しが照りつけていた。

「いただきまーす!」

レンはつるつると白いめんをすすった。

「やっぱり夏は、そうめんだよね。」

そのとき、スマートスピーカーがぴこん、と光った。

「レンー!」

小さな妖精、ことはが飛び出してきた。

「なに食べてるの?」

「そうめん。」

すると、ことはは目をきらっとさせた。

「そうびんかー!」

レンは首をかしげる。

「……なんか違ってない? それ。」

「違わないよ。もともとは『索餅』って書いて、そうびんって呼ばれてたんだ。」

「そうびん?」

「うん。ずーっと昔、中国から伝わってきた食べ物なんだ。今のそうめんのおじいちゃんみたいなものかな。」

「へえ。でも餅って言うくらいだから、お正月のお餅みたいなの?」

ことはは、うんうんとうなずいた。

「昔はね、もちもちしたものをまとめて『餅』って呼ぶことが多かったんだ。」

「えっ?」

「だから、お餅だけじゃないよ。うどんも、そうめんも、まんじゅうも。みーんな餅の仲間だったことがあるんだ。」

レンは思わず箸を止めた。

「うどんまで?」

「そうそう。」

「まんじゅうも?」

「そうそう。」

「じゃあ、お餅だけ特別じゃなかったんだ。」

「そのころはね。」

レンはそうめんを一本持ち上げて、じっと見つめた。

「でも今は、そうめんはそうめんだよね。」

「うん。」

ことははにっこり笑った。

「言葉ってね、人が使っているうちに少しずつ育つんだ。」

「育つ?」

「新しい意味が増えたり、古い意味が残ったり。人が暮らしていると、言葉も一緒に暮らしているんだよ。」

レンは少し考えて言った。

「じゃあ、『索餅』って言わないとダメなの?」

「ううん!」

ことははぶんぶん首を振った。

「みんなにお話しするときは、『そうめん』でいいんだよ。」

「え?」

「だって、『索餅』は昔すぎて、知らない人がほとんどだからね。」

「ことは、さっき自慢げに言ってたじゃん。」

「えへへ。」

照れたように頭をかく。

「ぼくは古い言葉が大好きだから。」

「じゃあ、おじいちゃんに『索餅』って言ったら?」

ことははぱっと笑顔になった。

「おじいちゃんなら大丈夫!」

「どうして?」

「おじいちゃんは、たくさん言葉を持っているから。」

「たくさん?」

「昔の言葉も、新しい言葉も、いろんな言葉を知っている人は、それだけいろんな時代の人とおしゃべりできるんだ。」

レンは少しうれしそうに笑った。

「じゃあ、おじいちゃんって、言葉持ちなんだ。」

「うん! ぼく、おじいちゃん大好き!」

そう言うと、ことははふわりと空へ舞い上がった。

「古い言葉が残るとね。」

「うん。」

「昔の人が『これ、おいしいね』って笑っていた声まで、ちょっぴり聞こえる気がするんだ。」

レンはもう一口、そうめんをすすった。

つるり。

いつものそうめん。

でも、そのずっと昔には、「索餅」と呼ばれていた時代があった。

名前は変わっても、おいしいと思う気持ちは、きっと変わらない。

レンはそう思いながら、最後の一本まで、つるつると味わった。


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