七夕祭
七夕が近づくと、商店街や学校には、笹の葉が飾られる。
レンの家でも、お母さんが小さな笹を花屋さんで買ってきた。
「はい、レン。短冊書こうか。」
テーブルの上には、色とりどりの短冊が並んでいる。
レンは青い短冊を一枚選ぶと、鉛筆でゆっくり書いた。
**「たくさん本が読めますように」**
書き終えると、ふと首をかしげた。
「ねえ、お母さん。」
「ん?」
「これって、誰にお願いするの?」
お母さんは短冊を結びながら、手を止めた。
「え?」
少し考えてから笑う。
「あ……そうね。誰かしら。」
「お星さま?」
「うーん……そういうものだと思ってたけど。」
レンはなんだか気になってしまった。
その夜。
宿題を終えて、机の上のスマートスピーカーを見る。
「ことはー。」
ぽわっと光がこぼれて、小さな妖精が飛び出した。
「はいはい! 呼ばれて飛び出ることはだよ!」
「七夕の短冊って、だれにお願いしてるの?」
ことはは目をぱちくりさせた。
「おっ、いいところに気がついたね。」
くるりと空中で一回転すると、得意そうに胸を張る。
「もともとはね、『乞巧奠』っていう行事だったんだ。」
「きっこう……でん?」
「『巧みなことを乞う』って書くんだよ。機織りがとても上手だった織姫にあやかって、裁縫や書道、それから勉強や芸事が上手になりますようにって願ったんだ。」
レンは目を丸くした。
「へえ。」
「だからね。」
ことはは指を一本立てる。
「ただ『ほしいなあ』ってお願いするだけじゃなくて、『ぼくもがんばるから、もっと上手になれますように』って願う行事だったんだ。」
「がんばるっていう気持ちも入ってるの?」
「そうそう!」
ことははうれしそうにうなずく。
「昔の人は、願うだけじゃなくて、ちゃんと練習もしたんだ。願いと努力は、いつも一緒だったんだよ。」
レンは少し考えた。
机の上には、さっき書いた短冊がある。
「……そうか。」
レンは短冊を手に取ると、立ち上がった。
「おかあさん!」
リビングからお母さんが顔を出す。
「どうしたの?」
「短冊、書きなおす。」
「え?」
レンは新しい短冊を一枚もらうと、ていねいな字で書いた。
**「算数がもっとできるようになりますように」**
書き終えると、小さくうなずく。
「よし。」
お母さんが短冊をのぞきこんで笑う。
「算数、がんばるんだ。」
「うん。」
レンは少し照れくさそうに笑った。
「お願いするだけじゃなくて、ちゃんと勉強もしないとね。」
その言葉を聞いて、ことはは誰にも見えないところで、にっこり笑った。
笹の葉がさらさらと揺れる。
昔の人が短冊に込めた願いは、「何かもらえますように」ではなく、「もっと上手になりたい」という前向きな気持ちだった。
その願いは今も、夏の風に乗って、静かに受け継がれているのだった。




