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レン  作者: 丸鶴
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15/27

富士山開山祭

朝ごはんを食べながら、レンはテレビを見ていました。

「今日、富士山は山開きを迎えました。」

アナウンサーがそう言うと、画面にはたくさんの人が集まり、神主さんがお祈りをしていました。

レンは首をかしげました。

「お母さん。」

「なあに?」

「山って、閉まってたの?」

お母さんは思わず笑いました。

「そう思うよね。」

「だって昨日も富士山はあったでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、どうして今日からなの?」

お母さんはすぐには答えませんでした。

「ねえ、あとで近くのお山まで歩いてみようか。」


二人は町のはずれの小さな山へ向かいました。

道ばたにはアジサイが咲き、小川ではカエルが鳴いています。

山道の入り口まで来ても、「山開き」と書いた旗はありません。

レンは言いました。

「やっぱり、この山は山開きしないんだ。」

「そうだね。」

「じゃあ、ずっと開いてるの?」

お母さんは木々を見上げました。

「うーん……お母さんは、そうでもないと思うな。」

「え?」

「この山にも、山の時間があるから。」

レンには少し難しく聞こえました。

「山の時間?」


お母さんは歩きながら話しました。

「春になると、小鳥が巣を作るでしょう。」

レンはうなずきます。

「そのころは、なるべく静かに見守る人もいるの。」

少し歩くと、大きなクヌギの木がありました。

「秋になると、この木のどんぐりを楽しみにしている動物たちがいるよ。」

「リスとか?」

「そうだね。だから、その時期には切らないほうがいい木もあるの。」

さらに歩くと、古い石のお地蔵さんがありました。

「昔は、この山で落ち葉を集めたり、薪を作ったりする時期も決まっていたんだよ。」

「決まってたの?」

「うん。山を長く元気にしておくためにね。」

レンは足元の落ち葉を見つめました。

誰も何も言わないけれど、この山には、この山の決まりがあるのかもしれない。

そんな気がしました。


帰り道。

レンはぽつりと言いました。

「じゃあ、この山にもカレンダーがあるんだ。」

お母さんはにっこり笑いました。

「そうだね。」

「人間のカレンダーじゃなくて、山のカレンダー。」

レンは振り返って、小さな山を見ました。

風が葉っぱを揺らしています。

鳥の声が聞こえました。

山は何もしゃべりません。

でも、春も夏も秋も冬も、ちゃんと自分の時間を知っているようでした。


家へ帰ると、夕方のニュースでまた富士山が映りました。

「今日は富士山山開きの日です。」

レンは今度は首をかしげませんでした。

「お母さん。」

「なあに?」

「山が今日から開いたんじゃないんだね。」

「うん。」

「『今年もよろしくお願いします』って、人が山にあいさつする日なんだ。」

お母さんは少し驚いて、それから優しくうなずきました。

「そう思う。」

レンは窓の向こうの小さな山を見ました。

「あのお山も、今日は静かだね。」

「今日は、どんな日なんだろうね。」

レンには分かりません。

でも、山には山の時間が流れていて、人はその時間を少しだけ借りて歩かせてもらっている。

そんな気がしたのでした。


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