4日目②備える、考える
夜の闇が、ギフトショップの窓という窓を黒く塗りつぶしていた。外からは、時折、意味のない呻き声や、アスファルトを爪で引っ掻くような乾いた音が聞こえてくるだけだ。それはもはや恐怖の対象ではなく、この新しい世界の当たり前の音になっていた。
具体的な脱出計画は、依然として白紙のままだった。思考は同じ場所をぐるぐると回り続け、有効な打開策を何一つ見つけ出せない。しかし、その思考の空転とは裏腹に、博の体は静かに動いていた。彼は一階に降り、棚から軽量でカロリーの高い食料だけを選び出し始めた。
チョコレートバー、袋詰めのナッツ、真空パックされたドライフルーツ。それらを、バックパックの隙間にパズルのように詰めていく。水は、未開封のペットボトルを三本。これは、いつ訪れるか分からない「その時」のための、最低限の準備だった。この行為自体に意味があるのかは分からない。だが、何もしないでいるよりは、遥かにましだった。手を動かしている間だけは、迫り来る絶望から意識を逸らすことができた。
準備を終えると、彼は再び二階の事務所に戻り、ノートパソコンを開いた。SNSにアクセスし、「グレンフィールド」「アーカム」といった、ごく狭い範囲を示すキーワードで検索をかける。画面に表示されるのは、数日前の古い投稿か、全く関係のない地域の断片的な情報だけだった。この町の周辺で、自分以外の誰かがまだキーボードを叩ける状態で生き残っている可能性は、限りなくゼロに近いようだった。世界との最後の糸が、今はもう、髪の毛よりも細く、頼りなくなっていた。
無力感が、鉛のように体にのしかかる。このまま、ただ待つしかないのか。食料が尽きるか、あるいは死者たちが偶然このシャッターを破るのが先か。その受動的な未来像に、彼の内なる何かが静かに抵抗した。
何か、試せることはないか。
彼は事務所の隅に置かれていた、土産物用のずっしりとしたガラスの文鎮を手に取った。割れた窓のそばまで這っていき、身を低くかがめながら、外の様子をうかがう。真下には、十数体の死者がひしめき合っていた。彼は狙いを定め、一体の頭上へ向けて、そっと文鎮を落とした。
文鎮は重力に引かれるまま、まっすぐ落ちていった。
ゴン、と鈍い音が響き、文鎮は男の肩に当たって地面に落ちた。男は一瞬よろめいたが、何事もなかったかのように、また体を揺らし始める。周囲の他の個体は、その音にも、落下物にも、全く反応を示さなかった。
これでは駄目だ。もっと強い衝撃、あるいは大きな音が必要なのか。彼は次に、棚にあった未開封のメープルシロップの瓶を手に取った。重く、割れれば大きな音を立てるだろう。彼は先ほどよりも少しだけ身を乗り出し、群れの中心から少し離れた、通りの向こう側のアスファルトを目がけて、力いっぱい瓶を投げつけた。
放物線を描いた瓶は、狙い通り店の前から数メートル離れた路上で砕け散り、シロップがまき散らされた。ガシャン!という派手な破壊音が、夜の静寂に響き渡る。
数体が、その音に反応したかのように、一瞬だけそちらを向いた。だが、それだけだった。彼らの興味はすぐに途切れ、また元の無目的な徘徊へと戻っていく。群れ全体を誘導するには、その刺激はあまりにも小さく、そして一時的すぎた。一体や二体を倒したところで、あるいは数メートル誘導したところで、この包囲網はびくともしない。
メープルシロップの甘い香りが窓辺まで伝わってくる。
博は窓から静かに身を引いた。実験は失敗に終わった。外の闇は深まり、同じ色が彼の心にも静かに広がっていった。それは見通しのきかない暗い色だった。




