夏の終わり
僕の意識が最後に捉えたのは、朝靄に煙るアーカムの町並みと、僕を呼ぶ誰かの声だった。次に目を開けた時、三つの夜が過ぎ去っていたことを、僕はアーミテイジ教授から聞かされた。
ミスカトニック川の岸辺に、半分壊れた棺桶にしがみついたまま打ち上げられている僕を大学からの捜索隊が見つけてくれたのだという。その話を聞いたサラは「死んじゃったのかと思って、心配した」と、三日ぶりに僕の意識が戻った時と同じセリフを、今度は少しだけ笑いながら言った。
僕が眠っている間、世界は、僕が命がけで動かした歯車によって、大きく変わっていた。
ダムから鳴り響いたあの巨大なサイレンは、アーカム北側を埋め尽くしていた死者の群れを、根こそぎダムへとおびき寄せてくれたらしい。そして、ダムの放水による濁流が、その大半を川の藻屑へと変えた。結果として、アーカムの北側は、安全で静かな、無人の地と化した。
その静寂はダンカン・ライスを地下シェルターから解放した。ゾンビの壁が消え去ったことで、彼は初めて地上へと姿を現し、このミスカトニック大学へと合流を果たしたのだ。僕が川で死にかけていたその行動が、結果的に、彼を救い出すことになった。この世界の因果というものは、あまりにも皮肉で、奇妙にできている。
ダンカンが加わり、ディーンという頼れるリーダーがいる今、大学の生存者たちの士気は最高潮に達していた。僕が眠っていた三日間で、彼らはアーカム市内に残った、はぐれゾンビたちの掃討作戦を完了させていた。今、大学の窓から外を見下ろせば、学生たちが、町の入り口となる主要な道路に、乗り捨てられた車や瓦礫を運び込み、巨大なバリケードを築いているのが見える。もう、この町へ死者が容易に踏み入ることはないだろう。
秋の陽光が、図書館の大きな窓から差し込み、床に埃の粒子をきらきらと踊らせている。窓の外では、冬に備えるための薪を割る音が、規則正しく響いている。運動場に作られた畑では、緑の芽が力強く育ち始めている。
日本を発つ前、夢見ていた留学生活とは、何もかもが違う。しかし、不思議と僕の心は穏やかだった。孤独への恐怖に苛まれ、ただ生き延びることだけを考えていた日々は終わった。ここには守るべき人々がいる。共に未来を築いていく仲間がいる。
遠い故郷の空の下で家族がどうしているのか、今はもう知る由もない。だが、僕はこの場所で生きていく。厳しい冬が、すぐそこまで来ている。僕たちは、ここで新しい生活を始める。このミスカトニック大学で。




