33日目⑥濁流
棺桶は共同墓地の急斜面を、猛烈な勢いで滑り落ちていった。博はその表面にしがみつき、木々の幹や、岩に体を打ち付けられながらも、必死に耐えた。衝撃で、古い木製の棺桶は、ミシミシと悲鳴をあげている。
どれくらいの時間、その暴力的な滑走が続いただろうか。不意に視界が開け、彼は自分がダムのすぐ脇の崖の上に出ていることに気づいた。眼下にはダムから放水された、おびただしい量の水が一つの巨大な濁流となって、轟音を立てて渦巻いている。
そして、その濁流のほとりには、サイレンの音に引き寄せられた、おびただしい数の死者たちが、ひしめき合っていた。彼らは音の発信源であるダムを見上げ、あるいは目的もなく、水際に集まっている。
博が乗る棺桶は、斜面の勢いを失い、その群れの、ちょうど真ん中へと滑り込んでしまった。
「……!」
声にならない叫び。四方八方を、腐った肉と濁った瞳に囲まれる。棺桶は、ゾンビたちの体に行く手を阻まれ、完全に停止してしまった。伸ばされる、無数の腕。
彼は最後の力を振り絞り、槍を構え直した。
遮二無二、槍を振り回した。一体、また一体と、なぎ倒されていく死者たち。倒しても、倒しても、その壁は、少しも薄くならない。
槍を振るう腕が、鉛のように重くなる。呼吸が限界に達する。
一か八か。
博は川の方角へと、活路を見出した。彼は槍で、川とは反対側のゾンビたちを、力任せに突き飛ばした。その反動を利用して、棺桶を川の方へと押し出す。
数体のゾンビを道連れに、棺桶はぬかるんだ岸辺を滑り、ついに濁流の中へと躍り出た。
冷たい水の衝撃が、全身を打ちつけた。棺桶は一瞬、水中に沈みかけたが、すぐに木の浮力で、再び水面へと浮かび上がる。博はその表面に必死にしがみついた。
周囲には、同じように濁流に飲み込まれたゾンビたちが、もがき、沈んでいくのが見えた。
安堵する暇はなかった。棺桶は木の葉のように、荒れ狂うミスカトニック川の濁流に翻弄され、下流へ、アーカムの町の方角へと猛烈な勢いで流され始めていた。




