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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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32日目③ミスカトニックの流れ

 図書館の喧騒から離れた一室で、博とアーミテイジ教授は、無線機の前に座っていた。スピーカーの向こうからは、ダンカンのいつもより緊張した声が聞こえてくる。



『川が増水している、だと?』



「ああ」教授が答えた。「見張りの報告によると、ここ数時間で急激に水位が上がっているらしい。特に大雨が降ったわけでもないのに、だ」



 その不可解な現象に、博も眉をひそめていた。ただの自然現象とは、考えにくい。



『地図を広げろ』ダンカンの鋭い声が響いた。『ミスカトニック川の上流だ。町から20キロほど遡ったところに、何がある?』



 アーミテイジ教授が、壁に貼られた広域地図を指差した。「古い共同墓地と……ミスカトニックダムだ。この地域の電力と水道を管理している、古いダムがある」



『……それだ』ダンカンの声には、確信がこもっていた。『おそらく、そのダムで、何かトラブルが起きている。水門が故障したか、あるいは、何らかの理由で、管理システムが暴走しているのかもしれない。最悪の場合……』



 ダンカンはそこで言葉を切った。その先に続く言葉を、博も教授も容易に想像することができた。最悪の場合、ダムが決壊すれば、アーカムの町は濁流に飲み込まれる。



「……確かめに行く必要がありますね」博が決然と言った。



 アーミテイジ教授は、彼の顔をじっと見つめ、深く頷いた。「私も、そう思う。このまま放置しておけば、我々はゾンビではなく、水によって滅ぼされることになるかもしれん」



 作戦は即座に決まった。博とアーミテイジ教授の二人が、電気自動車で、ダムの調査に向かう。教授は、この地域の地理に詳しかった。そして、博にはいざという時の、機械的なトラブルに対処できる知識と若さがあった。



「私も行こう」



 ディーンが部屋の入り口に立っていた。しかし、博は静かに首を振った。



「ディーンさん、あなたは、ここに残ってください」彼の声には、有無を言わせない響きがあった。「もしダムの放水が、北側のゾンビたちを刺激して、こちらへ押し寄せてきた場合、この大学を守れるのは、あなたと学生たちだけです」



 ディーンは一瞬、反論しようとしたが、博の真剣な目を見て、黙って引き下がった。彼の言う通りだった。それぞれに果たすべき役割がある。



 博とアーミテイジ教授は顔を見合わせた。



 これから始まる危険な旅。



 彼らの目には、恐怖ではなく、静かで、燃えるような決意の光が宿っていた。

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