32日目①突入
ミスカトニック大学図書館には、昨日までの停滞した空気とは違う、明確な目的意識と団結の意志が満ちていた。アーミテイジ教授とディーン、博を中心に、生存者全員が集まっていた。
「今日の目標は、一つだ」ディーンが元軍人らしい、張りのある声で言った。「無線機のある、コミュニケーションルームを奪還する。そして我々の協力者、ダンカン・ライス氏に、我々の無事を知らせる」
作戦はシンプルだった。部屋のドアは、外側からバリケードで塞がれている。そのドアを開き、中にいる数体のゾンビを、待ち構えた者たちが、槍やバールといった、音の出ない武器で一斉に叩く。
博もその一員に加わった。彼の隣には、スミスさんが車椅子から見守る中、ディーンがその年齢を感じさせない屈強な体つきで、巨大なレンチを構えている。学生たちが作った、先端を鋭く尖らせた鉄パイプの槍。看護師たちが持つ、消火器。誰もが、恐怖を押し殺し、覚悟を決めた顔をしていた。
「いいか!」ディーンが、合図を送る。「3、2、1……今だ!」
数人の屈強な男たちが、ドアに立てかけられた巨大な本棚を、掛け声と共に押し倒した。轟音と共に、ドアが開け放たれる。
中にいたのは、三体のゾンビだった。かつては大学の職員だったのだろうか。彼らは突然の光と音に反応し、こちらへ向き直る。
しかし、彼らが一歩を踏み出す前に、ディーンと博、学生たちの武器が、その頭部に、寸分の狂いもなく叩き込まれた。鈍い打撃音が数回、部屋に響く。あっけないほどの決着だった。
部屋はすぐに制圧された。奥の机の上には、大型の無線機が埃をかぶって鎮座している。アーミテイジ教授が、その前に座り、震える手で電源を入れた。いくつかのダイヤルを調整し、マイクを握る。
「……こちら、アーミテイジ。ダンカン、聞こえるか? 聞こえるなら、応答願う」
数秒の、緊張に満ちた沈黙。スピーカーから、ザーッというノイズだけが流れる。
その時だった。
『……教授! アーミテイジ教授か!?』
スピーカーからダンカンの、信じられないといった、感極まった声が響き渡った。その声を聞いて、図書館にいた生存者たちの間から、わっ、という歓声が上がった。
「ああ、ダンカン。我々は無事だ」教授は涙声で答えた。「君の友人が二人、こちらに合流してくれた。すべては彼らのおかげだ」
その言葉に皆の視線が、博とサラに集まった。博は少し照れくさそうに、隣に立つサラの肩を抱いた。サラは祖父の隣で、誇らしげに胸を張っている。
無線機を通して、ダンカンの笑い声が聞こえた。『そうか、そうか! やったな、若いの!』
ミスカトニック大学の図書館とアーカム北側の地下シェルター。二つの孤立した点が、再び確かな線で結ばれた。




