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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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31日目④セント・メアリー病院で何があったのか?

 夜が更け、サラがディーンの腕の中で完全に眠りにつくと、図書館の片隅には再び静寂が戻ってきた。ディーンは眠る孫娘の髪を優しく撫でながら、博の視線に応えるように、ゆっくりと口を開いた。



「病院のことだな」



 博は黙って頷いた。彼が知っているのは、断片的な事実だけだ。



「我々が、この大学にたどり着いてから、一週間ほど経った頃だった」ディーンは、遠い目をして語り始めた。「学内にいた連中をどうにか掃討し、この図書館を要塞化することに成功した。だが、我々は完全に孤立していた」



 ある夜、見張りに立っていた学生の一人が、興奮して駆け込んできたのだという。丘の上のセント・メアリー病院の窓から、光が点滅している、と。



「幸い、我々の中に、ボーイスカウトでモールス信号を学んだ者がいてな」アーミテイジ教授が、会話に加わった。「解読してみるとそれは紛れもない『SOS』だった。生存者が、籠城している、と」



 助けを求める声。しかし、大学と病院の間には、おびただしい数の死者が徘徊していた。アーミテイジ教授は、最後の頼みの綱として、無線で連絡を取り合っていた、風変わりなプレッパーに助けを求めた。



 ダンカン・ライス。



「彼が陽動を引き受けてくれた」ディーンが続けた。「我々が病院へ向かうための、道を作ってくれたのだ」



 救援部隊がすぐに編成された。その中心に立ったのが、元軍人としての戦闘経験を持つ、ディーンだった。



 ディーンの顔に、深い悲しみの影が差した。「もちろん、助けを求める人々を見捨てるわけにはいかなかった。だが……それだけではない」



 彼は一呼吸おいて、告白した。



「私の息子……マイケルが、あの病院に入院していた。そして、息子の妻アンナも、付き添いであそこにいるはずだった。サラの両親が」



 博は息を飲んだ。病院で見た、あの静かな二人の遺体。その手を組ませた、誰か。それは、父親であり、義父であった、ディーン自身の手によるものだった。彼は息子夫婦を、他の生存者たちを救うために、絶望的な戦場へと向かった。



「彼らは……発症していた」ディーンの声は、震えていた。「もう、手遅れだった。私が、この手で……」



 言葉はそこで途切れた。博は何も言えなかった。ただ目の前の老人が背負った、重い十字架の存在を、痛いほどに感じていた。アーカムの夜の闇の中で、すべての謎が解け、一つの家族の、静かな悲劇の物語が、明らかになった。

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