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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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31日目③グレンフィールドで何があったのか?

 夜。ミスカトニック大学の図書館は、温かい光と人の話し声で満ちていた。そこは高い書架をバリケード代わりにした、アーカムで最も安全な要塞だった。



 隅の方で、サラとディーンが離れていた時間を取り戻すかのように、寄り添って静かに話し込んでいる。その光景を、博は少し離れた場所から、アーミテイジ教授、そして車椅子に乗ったスミスさんと共に見守っていた。



「……信じられん」スミスさんが感極まった声で呟いた。「あの子が、一人で、ここまで……いや、君がいてくれたおかげだ」



 博は静かに首を振った。「僕も彼女に助けられました」



 そして、博はずっと聞きたかった質問を口にした。「あの日、一体何があったんですか?」



 スミスさんの顔が、辛い記憶を呼び覚ますかのように、わずかに曇った。アーミテイジ教授が、静かに語り始めた。



「私はあの日、グレンフィールドの友人の家を訪ねていた。朝の7時ごろだったか、突然、外が騒がしくなり、信じられない光景が広がっていた」



 教授は混乱の中で、たまたま通りかかったディーンとスミスさんを、自分の車に拾い上げたのだという。



「ディーンは必死に、サラを迎えに行かなければ、と叫んでいた」スミスさんが、その時のことを引き継いだ。「しかし、車のエンジン音が、周囲の『奴ら』を、すべて引き寄せてしまった。このままサラの家に向かえば、彼女の家を、奴らの群れで包囲してしまうことになる……」



 それは過酷な選択だった。孫娘の元へ駆けつけたいという本能とその行為が、かえって孫娘を危険に晒してしまう。



「アーミテイジ教授が、決断した」スミスさんが低い声で言った。「『我々が囮になる』と。サラを助ける最善の方法は、彼女に近づくことではなく、彼女から、脅威を遠ざけることだった」



 彼らは、グレンフィールド中のゾンビを引きつけながら、アーカムへと向かった。サラの家の周囲から、一体でも多くの死者を引き離すために。断腸の思いで下した、愛する者を守るための、苦渋の決断だった。



「すまなかった」スミスさんが博に向かって深く頭を下げた。「あの子を、一人残してきてしまった……」



「いいえ」博はきっぱりと言った。「あなた方の判断は正しかった。おかげでサラは生き延びられたんです」



博は、サラとディーンの方へ、再び視線を向けた。祖父の腕の中で、サラが安心しきったように、静かな寝息を立て始めている。その光景が、彼らの下した決断の、何よりの答えだった。夜の図書館には、再会の喜びに満ちた、穏やかな空気が流れていた。

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