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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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28日目①川の向こう

 博は一人、計画通りにミスカトニック川に架かる最も西の橋を目指した。サラは拠点に残り、無線で連絡を取り合う手筈だ。



 橋の手前にある、三階建ての古いオフィスビルの屋上。そこが今日の偵察ポイントだった。彼は階段を駆け上がり、屋上の縁に身を隠しながら、双眼鏡を構えた。



 眼下に広がる、川の北側の光景。彼は息を飲んだ。



 そこは南側とは全く違う世界だった。通りという通りが、おびただしい数の死者で埋め尽くされているのだ。彼らは目的もなく、密集した群れとなって、ゆっくりと淀むように徘徊している。その光景は、巨大な蛆虫が死んだ町に群がっているかのようだった。



 そしてもう一つ、決定的な違いがあった。見える範囲のどの建物にも、あの赤いバツ印が見当たらない。



 なぜだ? 博の頭が、高速で回転を始めた。なぜ、川を隔てただけで、これほどまでに状況が違うのか。



 一つの仮説が、彼の脳裏に浮かび上がった。



 この町にいた生存者グループは、意図的に、北側へ死者たちを誘導したのではないか。大きな音を立て続け、川の向こうへと、町のほとんどの死者をおびき寄せた。その結果、北側は死者の密集地帯と化し、南側は比較的安全なエリアとなった。だが、その作戦の中で、音に反応しなかった軍人ゾンビだけが、南側に取り残された。そして、生存者たちは、その安全になった南側で、物資の回収を行ったのだ。バツ印は、その証。



 だとすれば、北側の探索は不可能だ。あの群れの中へ足を踏み入れるのは、自殺行為に等しい。博は、計画を即座に断念した。謎の生存者グループの、冷徹で合理的な戦略に、彼は戦慄を覚えていた。



 重い足取りで、拠点へと戻る。彼が家のドアを開けると、サラがただならぬ表情で駆け寄ってきた。



「ヒロシ! 大変!」



 彼女の手には、電源の入ったままの無線機が握られていた。



「この無線機が……! 声を拾ったの! 他の人の声を!」



 その言葉に博の心臓が、大きく跳ね上がった。この町には自分たち以外の生存者が、今も、確かに存在している。

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