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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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27日目①秋の気配

 朝は静かに、何の変化もなく訪れた。屋上に仕掛けたカメラの映像を確認したが、大学の門はただの一度も開くことなく、夜通し固く閉ざされたままだった。



 軍人ゾンビは、決まったルートを巡回するだけで、新たな動きはない。アーカムの町は、まるで時が止まったかのような、膠着状態に陥っていた。



 焦燥感が、じわりと胸に広がってくるのを、博は感じていた。しかし、焦りは判断を鈍らせる。彼は、あえて何もせず、待つことを選んだ。



「サラ、これでもやるか」



 博がこの家の引き出しから見つけ出した、埃をかぶった一組のトランプを差し出すと、サラの顔がぱっと輝いた。「やる!」



 二人は床に座り込み、ポーカーや七並べといった、単純なカードゲームに興じた。最初はぎこちなかった会話も、ゲームが進むにつれて、自然と弾むようになっていく。それは、この崩壊した世界に来てから、初めて経験する、穏やかで、そして普通の時間だった。



 窓から吹き込む風が、ひんやりと肌を撫でる。涼しい日が増え、木々の葉が、わずかに色づき始めている。秋がすぐそこまで来ていた。



「そろそろ、僕らも冬のことも考えないとな」博はカードを配りながら、呟いた。



「冬……」サラが、不安そうな顔になる。



「食料はまだ十分にあるし、ほかの家を探せばもっと手に入るだろう。でも最悪、この家で冬を越すことも、考えておくべきだ」



 雪に閉ざされれば、車での移動は困難になる。ソーラーパネルでの充電効率も、著しく落ちるだろう。暖房も薪ストーブのための薪がいる。冬が来る前に、この状況を打開しなければならない。その思いが、博の中で、より一層強くなった。



 彼はパソコンを開き、先日ダウンロードしたデータの中から、「食用可能な野生植物図鑑」のファイルを開いた。



「サラ。この辺りの森には、クルミや、ドングリの仲間が自生しているらしい」



 画面には様々なナッツ類の写真と、その見分け方、アク抜きの方法などが、詳しく記載されていた。



「これって、食べられるの?」サラが、興味深そうに画面を覗き込む。



「ああ。正しい処理をすれば、貴重なカロリー源になる。秋になれば、森は食べ物の宝庫になるかもしれない」



 それは、ささやかな希望だった。文明が崩壊した世界で、自然の恵みに頼って生きる。人類の原点回帰とも言えるのかもしれない。トランプのカードを片手に、二人は画面に映し出された木の実の写真を、宝の地図でも眺めるかのように、熱心に見つめていた。

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