2日目②食料漁り
夜が訪れると、モーテルの駐車場は不安定な光に包まれた。昨日まで揺らぐことなく点灯していた外灯は、その役目を放棄しようとしている。電圧が一定でないためか、ちらちらと明滅を繰り返した。電力網が、末端からじわじわと死につつある証拠だった。空腹は、硬くなったピザではもはや誤魔化せない領域に達していた。行動しなければ、この部屋は安全なシェルターから、餓死を待つための墓標に変わるだけだ。
博は、昨日と同じ手順を頭の中で何度も反芻した。計画は単純、それゆえに実行可能だと信じたかった。彼は部屋の固定電話の受話器を手に取り、保安官事務所の番号を迷いなく押した。
外から、あの単調な電子音が鳴り響き始める。覗き穴に目を当てると、闇に慣れた目が、駐車場のあちこちで蠢いていた人影を捉えた。音。その抗いがたい刺激に導かれ、彼らは一様に、まるで操り人形のように、音の発信源である事務所の方角へとおぼつかない足取りで向かっていく。その動きは緩慢だが、確実だった。
今だ。
博は息を殺し、ドアのチェーンと鍵を外した。冷たい夜気が、肌を撫でる。彼は最短距離で、隣にある管理事務所のドアへと駆け寄った。ドアノブは施錠されていなかった。中へ滑り込むと、ひんやりとした空気と、古い紙の匂いが彼を迎えた。
カウンターの内側、壁のフックボードに、彼が探していたものがあった。十数本の鍵が束ねられた、モーテルのマスターキーだ。それを掴み取り、ポケットに押し込む。もう一つの目的物は、壁にピンで留められたグレンフィールド周辺の観光地図だった。縮尺は大きいが、道や主要な建物、そして森や湖の位置を知るには十分だった。彼はそれを丁寧に折りたたみ、同じくポケットにしまった。
自分の部屋へ戻り、息を整える。ここからが本番だ。彼はマスターキーを手に、隣の部屋から順番に、扉を開けていくことにした。
最初の数部屋は空室だった。清掃されたままのベッド、包装されたままのプラスチックのコップ。文明が、その営みを突然停止させた痕跡だけがそこにあった。五番目の部屋で、彼は初めての戦利品を見つけた。テーブルの上に、食べかけのスナック菓子の袋と、未開封のミネラルウォーターが二本残されていた。彼はそれを両腕に抱え、自分の部屋へと素早く運び込んだ。
この作業を、彼は機械のように繰り返した。ある部屋では子供が残したであろうチョコレートバーを、別の部屋では旅行者のスーツケースから缶詰のスープとモバイルルーターを見つけ出した。成功体験が、麻痺していた感覚を少しずつ呼び覚ます。恐怖は薄れ、代わりに高揚感にも似た感情が湧き上がってきた。
最後の角部屋。ドアノブにマスターキーを差し込み、回す。ドアが内側へ開いた瞬間、彼の油断は命取りの油断へと変わった。
開いたドアの隙間から、何かがなだれ込むように飛び出してきた。腐敗した肉と、どこか石油のようなつんとした刺激臭が、彼の鼻腔を突き刺す。細身の、まだ若い女だった。生きていれば、おそらく自分と同じくらいの歳だろう。しかし、その濁った瞳には何の理性も宿っておらず、剥き出しになった歯の間から、獣のような低い唸り声が漏れていた。
「うわっ……!」
不意を突かれた博は、なすすべもなく床に押し倒された。女の重みが全体重でのしかかり、その指が彼の首を掴もうと迫る。抵抗しようにも、相手の力は常軌を逸していた。死。その現実が、脳を白く染め上げる。パニックの中で、彼の体は生存本能だけで動いた。全体重をかけて体をひねり、どうにか女の体を横にずらす。わずかに生まれた隙間から這い出すと、彼は夢中で立ち上がった。
女はすぐさま起き上がり、再び彼に襲いかかろうとする。博はすぐそばにあった開いたままのドアを、ありったけの力で女の方へ押しやった。鈍い衝撃と共に、女の体が開いたドアと壁の間に挟まれる。その一瞬の隙を突き、彼は外へ転がり出ると、すぐさまドアを閉めた。内側からドアを叩く、鈍い音が響く。
彼は自分の部屋まで、もつれる足で逃げ帰った。ドアに背を預け、何度も鍵とチェーンを確認する。荒い呼吸が、静かな部屋に響き渡る。床には、先ほどまで集めていた食料が散らばっていた。それは、命がけで手に入れた、ささやかな生存の証だった。彼の指先は恐怖で震え、首筋には、あの女の爪が触れた生々しい感触が、まだ焼き付いていた。




