25日目②仮拠点
アーカムの郊外に、二人の息遣いだけが響く小さな拠点があった。昼間の偵察で見つけた、バツ印のない二階建ての一軒家。家の中は比較的きれいで、誰かが探索した痕跡はない。博は電気自動車を家の裏手にあるガレージに隠し、ここを当面の作戦基地と定めた。
キッチンで見つけ出したパスタを茹で、質素な夕食をとりながら、博はサラに昼間の出来事を詳しく話した。
「この町には間違いなく誰かがいた。それも、ただ隠れているだけじゃない。組織立って、計画的に動いていたようだ」
赤いバツ印の意味、通りを巡回する軍人ゾンビの存在。サラはフォークを持つ手を止め、真剣な顔で聞いていた。その青い瞳には、希望と同じくらいの不安の色が浮かんでいる。
「その人たち……いい人たち、かな?」
その問いに、博は即答できなかった。「わからない」と、正直に言うしかなかった。「味方かもしれないし、敵かもしれない。今も生きているかどうかもわからない」
未知の生存者は、暗闇の中の光であると同時に、その光が何を引き寄せるか分からない、予測不能なリスクでもあった。
食後、博はノートパソコンを開き、SNSにアクセスした。彼はアーカムで見た光景を、簡潔に報告した。それから最も差し迫った問題について、他の生存者たちに助言を求めた。
『市街地を巡回する、軍用装備のゾンビへの対処法を探している。検問所で使った火や落とし穴は、町の中では使えない。煙や騒音は、他の死者や、ここにいるであろう未知の生存者グループに、こちらの存在を知らせてしまうし、火災は起こしたくない。静かに、確実に奴らを無力化する良い方法はないだろうか?』
すぐにいくつかの意見が返ってきた。
『高所から重量物を落とすのはどうだ。ただし音が出る』
『電気を使った罠は有効かもしれない。車のバッテリーを使えば可能だろう。ゾンビが爆発物や銃弾を装備してたら危険だが』
『いや、一番確実なのは一体ずつおびき出し、音のしない武器で仕留めることだ。だがボディアーマーやヘルメット相手に、どうやって?』
議論は白熱したが、決定的な解決策は見つからない。ただどの意見にも共通しているのは「音を立てずに」という一点だった。
博はパソコンを閉じた。窓の外にオレンジ色の街灯に照らされた、無人の通りが見える。
通りのどこかを、今もあの重装備の死者が、生前の任務をなぞるかのように、意味もなく巡回しているのだろう。
徘徊する死者たち。組織化された未知の生存者。そして、自分たち二人。それは奇妙で、静かな戦場だった。
サラの穏やかな寝息を聞きながら、博は次の手を、静かに考え始めていた。




