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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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25日目①印

 サラは泣き疲れて眠っていた。その寝顔は昨日までの悲しみの影が嘘のように、穏やかだった。博は、彼女を起こさないように、静かに車を走らせた。



 アーカムの町を知る必要があった。このまま闇雲に彷徨うわけにはいかない。彼は病院のあった丘から少し下った、町を一望できる場所に車を停めた。



「サラ、少し様子を見てくる。何かあったら、すぐに無線で」



 眠っていると思っていたサラが、薄目を開けてこくりと頷いた。博はバールを手に一人、町の郊外へと足を踏み入れた。



 町は不気味なほど静かだった。時折、風が建物の間を吹き抜ける音と遠くで聞こえるカラスの鳴き声だけが、その静寂を破る。彼は、郊外の住宅街から、町の中心部へと向かって、慎重に進んでいった。



 そして彼はそれに気づいた。家の玄関のドアや、ガレージのシャッターに、赤いスプレー塗料で、巨大なバツ印が描かれている。それは、まるで何かの選別のように、一軒、また一軒と無機質に繰り返されていた。



 誰が何のために? 博は、警戒心を最大限に高めた。



 町の中心部に近づくにつれてその印は増え、商店のシャッターやオフィスのガラス扉にも見られるようになった。それから、その印が描かれた通りを、ゆっくりと徘徊する、見覚えのある姿を捉えた。



 ボディアーマーとヘルメットで身を固めた、軍人のゾンビ。あの検問所で見たものと同じだった。一体だけではない。通りのあちこちを、数体が、重い足取りで巡回している。



 まずい。博は咄嗟に、一番近くにあった、バツ印の描かれた住宅の裏庭へと駆け込み、中へ滑り込んだ。



 家の中は、もぬけの殻だった。缶詰や保存食が入っていたであろう棚は空っぽで、クローゼットの服は持ち去られ、床には、誰かが物資を漁った後の痕跡だけが残されていた。



 おそらくバツ印は、すでに生存者が物資を回収し終えた、探索済みの場所を示すサインだ。



 この町には組織化された生存者のグループがいる。



 彼は無線機を取り出し、声を潜めてサラに連絡した。「サラ、聞こえるか。軍のゾンビが、通りをうろついている。教会近くの通りだ。君のいる場所から見えないか?」



『待って……双眼鏡で見る』数秒の沈黙の後、サラの声が返ってきた。『……二体いる。教会から南に歩いてきてる』



 博は息を殺して、窓の隙間から外をうかがった。重い足音が、家の前を通り過ぎていくのが聞こえる。



『……行ったよ。通りの向こうに行った』



 サラの合図で博は再び家から飛び出した。すぐに建物の影から影へと来た道を急いで引き返していく。頭の中では、新たな情報が、目まぐるしく組み立てられていた。



 この町には誰かがいる。それはただの死者ではない。この町から物資を整然と持ち去っている、未知の生存者グループだ。彼らは、味方なのか、それとも……

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