24日目②西棟
病院の中は、外の世界から切り離されたかのように、時間が止まっていた。博は受付ホールの壁にかかったフロア案内図を、LEDライトの光で照らし出した。光の輪が、現在地を示す「西棟1階」の文字を浮かび上がらせる。目的地は反対側の「東棟3階、302号室」。最も遠い場所の一つだった。
彼はバールを握り直し、一歩を踏み出した。長い、長い廊下。窓から差し込む光が、床に不規則な縞模様を描き、彼の影を歪に引き伸ばしている。数歩進んでは立ち止まり、壁に背を預けて耳を澄ます。聞こえるのは、自分の荒い呼吸と心臓の鼓動だけだ。床には、カルテらしき書類が散乱し、いくつかの椅子が倒れている。パニックの中で人々が逃げ惑った、生々しい痕跡だった。
西棟を抜け、二つの建物を繋ぐ連絡通路に近づくにつれて、その痕跡は、より暴力的で、凄惨なものへと変わっていった。壁には、黒く変色した血痕が飛び散り、床には薬莢が数個、鈍い金色に光っている。
そして、彼は最初の死体を見つけた。白衣を着た、医者だったと思われる男のゾンビが、廊下の真ん中でうつ伏せに倒れている。その後頭部には、銃弾によって穿たれたであろう、黒い穴がぽっかりと空いていた。
一体だけではなかった。東棟の入り口に近づくにつれて、その数は増えていく。医者、看護師、患者、見舞客だったであろう人々。そのすべてが、例外なく、頭部を正確に撃ち抜かれて沈黙させられていた。無駄弾は一発もない。冷徹な処刑人の手によって、一体ずつ、確実に処理されたかのようだ。
博は息を飲んだ。これはパニックに陥った素人の乱射ではない。銃の扱いに熟達し、敵の弱点を正確に理解している、プロの仕業だ。死体の腐敗の進み具合からして、この掃討が行われたのはかなり前のことらしかった。
誰かがここにいた。たった一人か、あるいは少数でこの病院内の死者たちと戦い、そして一掃した人物が。その人物は、今どこに? 生き延びて、どこかへ向かったのか。それとも、この病院のどこかで、彼もまた……
博は東棟へと続くガラスの二重扉の前に立った。傾きかけた太陽が、血の色のように赤い光を廊下に投げかけている。この扉の向こうに、サラの父親はいるのか。この銃弾の跡を残した、謎の生存者はいるのか。
答えを求めて、彼は重いガラスの扉を、ゆっくりと押し開けた。




