24日目①セント・メアリー病院へ
太陽が昇り、アーカムの町が再びその全貌を現すと、博は電気自動車を静かに発進させた。町の中心部を避け、丘陵地帯を迂回するように、セント・メアリー病院へと続く裏道を進んでいく。
やがて、白いペンキが塗られた「St. Mary's Hospital」という看板が見えてきた。博は病院の敷地から少し離れた林の中に車を隠し、サラと共に双眼鏡で周囲の様子をうかがった。
病院は、丘の上に静かに建っていた。正面玄関へと続く広大な駐車場には、数台の車が、忘れ去られたかのように、ぽつりぽつりと停まっている。パンデミック発生時、ここにいた人々の数がいかに少なかったかを、その光景は雄弁に物語っていた。
「……いない」
博は、双眼鏡から目を離し、安堵のため息をついた。病院の周囲には、徘徊する死者の姿は一体も見当たらない。町の中心部とは明らかに違う、静けさがそこにはあった。
「サラ、僕は中を調べてくる」博は決意を固めて言った。「君はここで待っていてくれ。何かあったら、すぐに無線で知らせる。危険だと判断したら、すぐにこの車で逃げるんだ。いいね?」
サラは不安そうに唇を噛んだが、黙ってこくりと頷いた。彼らのサバイバルにおいて、自分に与えられた役割を、彼女は理解していた。
博はサラに無線機を手渡すと、整備工場から持ち出したバールを手に、車を降りた。そして、音を立てないように、病院の敷地へと足を踏み入れた。目標は正面玄関ではなく、救急患者用の入り口だ。そこなら、内側から施錠されていない可能性が高い。
彼の予想通り、自動ドアは電力が落ちて動かなかったが、手でこじ開けることができた。ひんやりとした、どこか薬の匂いが混じった空気が、中から流れ出してくる。博は最後の深呼吸をすると、バールを強く握りしめ、光の届かない、静寂に包まれた病院の内部へと、一人、足を踏み入れた。カツン、という彼の靴音が、がらんとした受付ホールに、不気味に響き渡った。




