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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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23日目①アーカムの町並み

 電気自動車は、ニューイングランドの穏やかな丘陵地帯を縫うように、静かに走り続けていた。昨日までの緊張が嘘のように、旅は順調に進んでいた。そして昼が近づいた頃、道が大きく右にカーブし、視界が開けた瞬間、それは現れた。



「……見えた」



 博の呟きに、助手席でうとうとしていたサラが、はっと顔を上げた。



 前方の、山腹が切り立った崖の向こう。広大な平野に、古風な煉瓦造りの建物が立ち並ぶ、一つの町が広がっていた。ミスカトニック川が、銀色の帯のようにその中心を貫いている。アーカム。旅の目的地が、ついにその姿を現したのだ。



 博は車を道の脇の茂みに隠し、システムを切った。まだ町まではかなりの距離がある。彼はサラに双眼鏡を渡し、自分ももう一つの双眼鏡を目に当てた。



 レンズを通して見るアーカムの町は、精巧なジオラマのようだった。一見すると、かつてのように平和な情景だ。しかし、その通りを拡大していくと、ジオラマには似つかわしくない、不規則な動きをする黒い点が、いくつも見て取れた。



「……いるな」博が低い声で言う。



「うん」サラも、こくりと頷いた。「でもグレンフィールドの通りみたいに、たくさんじゃない」



 その通りだった。死者たちは、通りをまばらに徘徊しているだけに見える。グレンフィールドや、あの検問所のような、密集した群れは形成していないようだ。



 次に、博はレンズを町の中心、ミスカトニック大学のキャンパスへと向けた。高い塀に囲まれた広大な敷地。荘厳な石造りの校舎。その正門は固く閉ざされており、人の気配は全く感じられない。生き残った人々が立てこもっているのか、あるいは、内部で全滅し、静かな墓標と化しているのか。ここからでは、何も判断できなかった。



「どこから、入る?」サラが、不安そうに尋ねた。



 博は双眼鏡から目を離し、思考を巡らせた。そして、数日前にSNSで交わした、あの議論を思い出していた。



「サラ、前に、おじいさんがテレビがおかしいって言ったのが、朝の7時ごろだって言ってたよな」



「うん」



「世界中でほとんど同じ時間に始まったんだ。ここも例外じゃないはずだ」博は地図を広げ、セント・メアリー病院の位置を指差した。「朝の7時なら、病院の面会時間は、まだ始まっていない。中にいるのは、入院している患者さんと、その付き添いのごく少数の家族。あとは、夜勤明けと日勤の、医者や看護師だけだ」



 彼の頭の中では、論理的な推測が組み立てられていた。大学や町の中心部に比べ、パンデミック発生の瞬間に、病院内にいた人間の数は、圧倒的に少ないはずだ。つまり、そこにいる死者の数も、比較的少ない可能性が高い。


「病院から調べよう」博は、決意を込めて言った。「君のパパの安否も、確かめないといけない。それに、もし医療関係者が生き残っていれば、これ以上ない味方になる」



 サラは力強く頷いた。彼女の青い瞳に恐怖と、そして父に会えるかもしれないという、かすかな希望の光が宿る。博は再び双眼鏡を構え、丘の上に立つセント・メアリー病院の白い建物を、じっと見つめた。

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきましたが、大変楽しませていただいております。ゾンビらしい要素とクトゥルフとの融合がこの先どうなって行くのか楽しみです。
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