18日目②ダンウィッチの夜
オズボーン雑貨店の窓から見えるダンウィッチの夜は、色も音も失った闇だった。霧はさらに深まり、月明かりすら地上には届かない。時折、老朽化した建物のどこかが、風に煽られて軋む音が聞こえるだけで、それ以外は墓場のような静寂が村を支配していた。
昼間のうちに、博とサラは店の窓という窓に、内側から厚い布や板を打ち付けていた。それでも、壁の隙間から吹き込む風は、冷たい誰かの指のように、彼らの肌を撫でた。
日没前、霧が一瞬だけ晴れた時、博は店の裏窓から、村はずれの光景を目に焼き付けていた。村を見下ろすような丘の斜面に、一軒だけ、不釣り合いなほど大きな農家が建っている。その屋根は大きく傾ぎ、壁は黒く変色していて、巨大な骸骨が丘に寄りかかっているかのようだった。
そして、その農家の周りの、ほとんど崖に近いような急斜面で、博は動くものを目にした。数頭の牛。しかし、その牛たちは、彼が知っている家畜の姿ではなかった。体は痩せこけ、肋骨が浮き出て見え、皮膚はところどころが爛れて、病に冒されているかのようだった。そんな体で、どうやって立っているのか不思議なほどだったが、牛たちは時折足を滑らせながらも、必死に地面から生える僅かな草を食んでいた。その光景は、牧歌的というよりは、むしろ地獄の片隅を覗き見ているかのような、背筋の凍る異様さを放っていた。
深夜。二人は店の奥の居住スペースで、毛布にくるまって息を潜めていた。外の闇が、生き物のように、この小さな避難所を飲み込もうとしているように感じられた。
どれくらいの時間が経っただろうか。博が、浅い眠りに落ちかけていた、その時だった。
外から何かがずるずると這いずる音が聞こえた。
微かだが、はっきりと聞こえるその音に、彼は全身の神経を逆立たせた。何かが、地面を這いずる音。それは、人間の足音ではない。熊のような、四足獣の動きとも違う。もっと重く、粘着質で、巨大な何かが、店のすぐ外のぬかるんだ地面を、ゆっくりと引きずられるように移動している音だった。
博はサラの口をそっと手で覆った。彼女も、その音に気づいていた。恐怖に見開かれた青い瞳が、暗闇の中で博を見つめている。
音は店の壁に沿って移動し、やがて遠ざかっていった。それが何なのか、確かめる勇気は、二人にはなかった。ただ、その音が、昼間見たあの丘の上の、巨大な農家の方角へと消えていったことだけは、確かだった。
この村には、徘徊する死者たちはいない。代わりに、もっと得体の知れない、闇に紛れて蠢く「何か」がいる。その事実は、これまで彼らが経験してきたどんな恐怖とも違う、じっとりと肌にまとわりつくような、陰湿な恐怖となって、二人の心を蝕んでいくのだった。




