18日目①ダンウィッチ
朝。しかし、朝日は彼らが足を踏み入れた森にはほとんど届かなかった。鬱蒼と生い茂る木々の枝葉が、空を分厚く覆い隠し、道は常に底冷えのする薄暗い黄昏の中にあった。電気自動車は、ぬかるんだ悪路を、時折タイヤを滑らせながらも、静かに進んでいく。
昼近くになって、ようやく森が途切れ、視界が開けた。霧が立ち込める谷底に、時代から取り残されたかのように、数軒の家々が身を寄せ合うようにして建っている。歪んだ屋根、黒ずんだ壁板、そしてほとんどの窓が板で打ち付けられている。それが、ダンウィッチ村の全景だった。
村全体が、言いようのない不気味な静寂に包まれていた。徘徊する死者の姿は、どこにも見えない。だが、それは安全を意味するものではなかった。むしろ、生命の気配そのものが、この村から完全に抜け落ちてしまっているかのようだった。
「僕が、先に行って様子を見てくる。サラは、ここで待っていてくれ」
博はサラに無線機を渡すと、車を森の茂みに隠し、一人、音を殺して村へと向かった。村の道は、ぬかるんでおり、腐った落ち葉が堆積している。家々の庭は荒れ放題で、奇妙なほど大きく育った雑草が、墓標のように立ち並んでいた。時折、風が唸りをあげて家の隙間を吹き抜ける音が、誰かの呻き声のように聞こえた。
村の中心らしき場所には、一軒だけ、かろうじて建物の形を保っている雑貨店があった。「Osborn’s General Store」と書かれた、ペンキの剥げた看板が、キィキィと音を立てて揺れている。博は、その店の窓から中をうかがった。中は暗く、棚の商品は分厚い埃をかぶっている。人の気配はない。
彼は無線でサラを呼び寄せた。二人で、音を立てないように雑貨店のドアを開ける。カラン、とドアベルの乾いた音が、静寂の中でやけに大きく響き渡った。
店の中は、カビと、何の匂いともつかない、微かに石油のような異臭が混じり合った、淀んだ空気が満ちていた。二人は、店の奥にある小さな居住スペースに身を隠した。
「数日間、ここにいよう」博は、低い声で言った。「車は、森の中に隠しておく。この森では、太陽の光が弱すぎて、充電に時間がかかる。バッテリーが回復するまで、ここで待つしかない」
サラは黙って頷いた。窓の外では、霧がさらに深くなり、村の歪んだ輪郭を、白い闇の中へと溶かしていく。この村には、何かがある。徘徊する死者たちとは、全く異質の、もっと古く、根源的な恐怖の気配が。彼らは、その正体も知らぬまま、その恐怖の巣の中心で、息を潜めることになった。




