17日目①火葬
夜明けは静かに訪れた。博はスミス家のガレージから持ち出した、刃の欠けたスコップを手にしていた。落とし穴。人類が、何万年も前から獣を狩るために使ってきた、原始的な罠。それが、最新鋭の装備をまとった死者に対する、彼らの答えだった。
場所は、検問所の手前、アスファルトが途切れた脇の土手。土は柔らかく、掘りやすい。博が穴を掘り、サラが少し離れた場所から双眼鏡で見張る。その役割分担は、もはや阿吽の呼吸だった。
スコップが土を噛む、ザクザクという音だけが、夜明け前の静寂に響く。額から流れ落ちる汗が、土埃と混じって泥の筋を作る。腕は鉛のように重く、手のひらにはいくつもマメが潰れていた。それでも、彼は手を休めなかった。これは、ただの肉体労働ではない。未来への道を、自らの手で掘り起こすためであり、死者を埋葬する穴を掘るための仕事だった。
数時間後、大人が一人、ようやく落ち込むことができる深さと広さの穴が完成した。博は、その上に枯れ枝を渡し、落ち葉を被せて、巧妙に偽装を施した。
「サラ、準備はいいか」無線機越しの声が、かすかに震える。「一体、誘い出す」
『気をつけて』サラの短い返事が、彼の背中を押した。
博は検問所に最も近い位置にいる軍人ゾンビの視界に、一瞬だけ、その身を晒した。そして、すぐに身を隠す。数秒の沈黙。やがて、重いブーツが地面を引きずる、あの独特の足音が、ゆっくりとこちらへ近づいてくるのが分かった。
心臓が、喉の奥で激しく脈打つ。博は、穴の向こう側で息を殺し、敵の接近を待った。一体だけ。他の個体は、まだ気づいていない。
重装備の死者は、知性のかけらもない動きで、まっすぐに博がいた場所を目指してくる。その進路上に、巧妙に隠された死の罠があることなど、知る由もなく。
パリパリという枯れ枝の砕ける微かな音。次の瞬間、軍人ゾンビの巨体は、何の前触れもなく、地面に吸い込まれた。ゴトン、という重く鈍い落下音が、作戦の成功を告げた。
穴の底で、ゾンビは起き上がろうともがいていたが、その深さと重装備が仇となり、身動きが取れないようだった。
これで終わりではない。博は乗り捨てられていた車から、あらかじめホースで抜き取っておいたガソリンの入った携行缶を手に取った。すぐに躊躇うことなく、その中身を穴の中へと注ぎ込んだ。鼻を突く、強烈な揮発油の匂い。
彼は布切れに火をつけると、それを穴へ向かって投げ入れた。
爆発的な音と共に、穴から炎の柱が立ち上った。黒い煙が、澄んだ朝の空へと昇っていく。悲鳴は、聞こえない。ただ、肉と化学繊維の焼ける、おぞましい悪臭だけが、あたりに立ち込めた。
軍人ゾンビは火をつけると、まるで原油を直接燃やしているかのような真っ黒な煤と強烈な揮発臭を放ちながら、奇妙なほど勢いよく燃えた。
その作業は、工場のライン作業のように、淡々と繰り返された。一体ずつ誘い出し、穴に落とし、焼却する。太陽が真上に昇る頃には、検問所を徘徊していた六体の軍人ゾンビは、すべて穴の底で黒い炭と化していた。
道は開かれた。しかし、その道を切り開いた彼の両手は泥と汗にまみれ、その鼻腔の奥には、死体が焦げる臭気が、いつまでもこびりついていた。




