8日目②作戦
地図を広げたリビングは、作戦司令室のような緊張感に包まれていた。サラが指し示したジョーおじさんの自動車整備店。それは、この家から数ブロック先、町の外れへと向かう道沿いにあった。しかし、その最短ルートを博の指がなぞった時、二人は同時に息を飲んだ。その道は、ギフトショップのすぐそばを通っていた。
「ここを……通らないと、駄目か」
博の呟きに、サラはこくりと頷いた。迂回路はあるが、そのためには開けた大通りを長く進まねばならず、危険はむしろ増すだろう。あの熊が、今は死してなお、彼らの行く手を阻む番人のように、その一帯を徘徊しているはずだった。溶接棒を手に入れるという希望は、圧倒的な脅威の前に、再び壁に突き当たったかのように見えた。
どうすれば、あの獣の注意を掻い潜れる?
「サラは通りの見える建物から、外を見ていてほしい。そして、これで」
彼は机の上に置かれていた無線機を指差した。
「これで、僕に外の様子を教えてくれないか。どこに『奴ら』がいるか、熊がどこにいるか。君の目が、僕の目になる」
サラは、一瞬、その青い瞳を不安げに揺らがせた。しかし、すぐにその表情は引き締まり、小さな決意の色を宿した。「わかった。やる」
ナビゲーターは決まった。だが、最大の問題は残されたままだ。どうやって、死者たち、特に感覚が鋭いかもしれない感染した熊の注意をそらすか。ギフトショップの前で使った音による陽動は、もはや効果が薄いことは証明されている。
博が腕を組んで考え込んでいると、サラが不意に立ち上がり、おもちゃが詰め込まれた古い木箱をごそごそと漁り始めた。そして、彼女が取り出してきたのは、一台の埃をかぶったラジコンカーだった。
「これ、動くかな……」
「ラジコン?」博は、訝しげに眉をひそめた。こんな時に、おもちゃが何の役に立つというのか。
「うん」サラは、真剣な顔で続けた。「それにね、グランパの部屋に、壊れたラジオがあるの。音は、鳴るんだけど……」
その瞬間、博の頭の中で、二つの無関係なガラクタが、一つの完璧な装置として結びついた。音源を、移動させる。固定された音ではなく移動する刺激で、死者たちの注意を、目的の場所から引き離し、別の場所へと誘導する。
「サラ、君は天才かもしれない」
博の声は、かすかに上ずっていた。二人はすぐに、サラの祖父の部屋から、ノイズしか発しないポータブルラジオを探し出した。そのラジオを、ビニールテープでラジコンカーの荷台にぐるぐる巻きに固定した。スイッチを入れるとラジコンカーは「ザーッ」という耳障りなノイズを撒き散らしながら、リビングの床をぎこちなく走り始めた。
それは、文明の残骸を寄せ集めて作った、みすぼらしくも独創的な、陽動装置の誕生だった。博とサラは、ノイズを立てて走り回るその小さな機械を、まるで秘密兵器を眺める共謀者のように、真剣な目で見つめていた。計画は、決まった。夜が明け次第、この「走るノイズ」を囮にして、博は整備店へと向かう。
夜の闇の中、二人は言葉を交わすことなく、ただ静かな決意を共有していた。




