8日目①簡易アーク溶接機
スミス家のガレージは、文明の残骸から新たな希望を生み出すための、博の研究室と化していた。彼は昨夜持ち帰った金属部品と、サラの家や近所の空き家から集めてきた数台の古い電子レンジを前に、黙々と作業に没頭していた。
サラが、心配そうにマグカップに入れた水を差し出す。「ヒロシ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」博は顔を上げ、かすかに笑ってみせた。「うまくいく。必ず」
彼の計画は荒唐無稽に聞こえるが、工学的な理論に基づいていた。まず、電子レンジの心臓部である変圧器をすべて取り出す。この装置は、家庭用の低い電圧を、マイクロ波を発生させるための数千ボルトという高電圧に変換するものだ。博がやろうとしているのは、その逆だった。
彼はハンマーとタガネを使い、変圧器の高電圧側である二次コイルから細いエナメル線を破壊し、取り除いていく。火花と金属音が、静かなガレージに響き渡る。次に、空になった鉄心に、ヘリの残骸から回収した太い絶縁銅線を、数回だけ巻き付けた。
これが新しい二次コイルとなる。巻き数が少ないため電圧は劇的に下がるが、その代わり、断面積の大きい銅線は、巨大な電流を流すことを可能にする。
この改造変圧器を、彼は四つ作り上げた。それらの一次コイル側を並列に接続し、ヘリから持ち帰った軍用の大型バッテリーへ、インバーターをかませて繋いだ。四つの変圧器が、バッテリーの力を並列で受け持つことで、一つの変圧器にかかる負荷を分散させ、より安定した大電流を生み出すことができる。出力側には、これもヘリから回収した頑丈なケーブルを取り付け、その先端には金属片を加工して作った電極ホルダーとアースクランプを接続した。
即席だが、理論上は機能するはずの簡易アーク溶接機が完成した。
博は額の汗を拭い、溶接面をかぶると最終確認を行う。アースクランプを金属の作業台に挟み、ホルダーに短い鉄の棒を固定した。そして、意を決して、鉄の棒の先端を作業台に軽く接触させた。
溶接面の向こうで網膜を灼くような青白い閃光と激しい火花が散った。バチッ!と鳴る破裂音。オゾンの匂いが、焦げ臭さと共に鼻をつく。
成功だ。
金属を溶かすほどの高温を、このガレージの中で作り出すことに成功したのだ。アークの光は、この死んだ世界で久しく見なかった文明の火そのものだった。
しかし、その成功の喜びは、すぐに次の極めて初歩的な問題に突き当たった。金属を溶かすことはできても、金属と金属を繋ぎ合わせるための「溶加材」がない。アークの熱で溶けて、母材の隙間を埋める、あの細長い棒。溶接棒がなければ、この装置は何の意味もなさない。
博は完成したばかりの溶接機を前に立ち尽くした。リビングに戻るとサラが不安そうな顔で彼を見上げた。「どうしたの?」
「溶接はできそうだ。だが、肝心なものが足りない」博は、頭をかきながら言った。「溶接棒という、特殊なコーティングがされた金属の棒が必要なんだ。この町で、そんなものが手に入りそうな場所は……」
サラは少しの間、指を顎に当てて考え込んでいた。それから、思い出したように顔を上げた。
「車の修理屋さんなら。町の外れに、ジョーおじさんの自動車整備店があるよ。パパの車、いつもそこで直してもらってた。鉄をくっつける、火花が散るやつ、見たことある」
その言葉は暗闇の中に差し込んだ、新たな一筋の光だった。博はすぐに地図を広げ、サラが指し示す場所を確認する。
新たな目的地が、決まった。




