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ミスカトニック大学留学記  作者: 里見さと子


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7日目①バッテリー

 夜明けの光が、窓ガラスの埃を金色に照らし出した。博は、ほとんど一睡もせずに夜を明かした。隣で、毛布にくるまって眠るサラの穏やかな寝息だけが、この家の中に生命の営みがあることを示している。



 計画は、単純明快だ。隣のスミスさんの家へ忍び込み、電気自動車を確保する。博は眠っているサラを起こさないよう、音を立てずに立ち上がった。窓から外をうかがうと、通りを徘徊する死者の数は昨日と変わらないように見えた。彼はサラの家の裏口から、息を殺して外へ出た。隣家との間を隔てる、手入れの行き届いた生垣の影を伝い、目的のガレージへと向かう。幸い、ガレージの通用口には鍵がかかっていなかった。



 薄暗いガレージの中、ほこりをかぶった一台のセダンが静かに鎮座していた。流線形の、未来的なデザイン。排気管のないその車体は、この原始に帰った世界において、場違いな工芸品のようだった。博は運転席のドアを開け、中に滑り込んだ。キーはサンバイザーに挟まれていた。彼はそれを差し込み、スタートボタンを押す。



 計器類が、かすかな電子音と共に目を覚ました。しかし、博の胸に灯った希望は、次の瞬間には冷たい絶望へと変わった。ダッシュボードの中央に表示されたバッテリー残量を示すアイコンが、ほとんど空っぽの状態で、赤く点滅している。これでは、数キロ走るのがやっとだろう。アーカムどころか、この町を抜けることすらできない。



 額に冷たい汗が滲む。ここまで来て、駄目なのか。博はハンドルに額を押し付け、無力感に歯を食いしばった。その時、彼の視界の端、ガレージの小さな窓の外に、ある光景が映った。向かいの家の、屋根。そこに設置された、数枚の黒いパネルが、朝の光を鈍く反射していた。



 ソーラーパネル。



 その単語が、彼の脳内で閃光のように弾けた。工学部で学んだ知識が、死んだはずの回路に電流を流すように、思考を駆け巡らせる。太陽光を電力に変える装置。もし、あのパネルを車に直接繋ぐことができれば? 日中、走行しながらでも、停車しながらでも、充電できるのではないか。それは、燃料という概念から解放された、半永久的な移動手段の獲得を意味していた。



 博は車から飛び出した。彼の目には、もはや絶望の色はなかった。代わりに解決すべき課題を前にした技術者の、熱を帯びた光が宿っていた。彼はガレージの壁にかけられた工具棚を物色し始めた。レンチ、ドライバー、ワイヤーカッター。使えそうなものを、手当たり次第に布袋に詰めていく。



 サラの家に戻ると、彼女は目を覚まして、不安そうに彼を待っていた。「車、あった?」



「ああ。だが、問題がある」博は、工具の入った袋を床に置くと、地図を広げた。「バッテリーが、ほとんどない。だから、これから少し、町で材料を集める必要がある」



 彼は地図の上で、工具を使って屋根からソーラーパネルを外し、それを車の屋根に固定し、ケーブルでバッテリーに接続する計画の概要をサラに説明し始めた。それは文明の残骸を拾い集め、崩壊した世界を生き抜くための、新たな道具を自らの手で作り出す途方もない試みの始まりだった。

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