6日目①
意識の浮上は、深い水の底から徐々に引き上げられるかのようだった。最後に覚えているのは、受話器から聞こえてきた少女の声と、隣家のドアを叩く乾いた音、そして自分を中へ引き入れた小さな手の感触。その後の記憶は、ぷつりと途切れていた。
博が瞼を開くと、最初に目に映ったのは、見慣れない部屋の、埃っぽい木目の天井だった。体を起こそうとして、全身の筋肉が軋むのを感じる。極度の緊張と疲労が、彼の肉体を限界まで蝕んでいた。
「……起きた」
か細いが、芯のある声がした。視線を巡らせると、部屋の隅の椅子に、一人の少女が座っていた。歳の頃は十代前半だろうか。金色の髪を無造作に束ね、自分よりも大きなサイズのフランネルのシャツを羽織っている。その青い瞳が、じっと博を見つめていた。
「死んじゃったのかと思って、心配した」
少女は、感情を抑えた平坦な声で言った。その言葉には、非難も安堵も含まれていない。ただ、純粋な事実として、そう告げているだけだった。
博は何か答えようとしたが、乾いた喉からは、かすれた息が漏れるだけだった。彼はゆっくりと体を起こし、自分がリビングのソファに横たえられていたことを理解した。目の前のローテーブルの上には、彼女が一人で過ごしてきた時間の痕跡が、静かに散らばっていた。空になったミネラルウォーターのペットボトルが数本、缶詰の空き缶、食べかけで放置されたシリアルの箱。その光景は、どんな言葉よりも雄弁に、彼女の孤独な戦いを物語っていた。
「サラ」少女が、唐突に言った。「私の名前。あなたは?」
「ヒロシ……」かろうじて、博は自分の名前を絞り出した。
「十二歳」サラは、彼の問いを待たずに続けた。その目は、テーブルの上の空き缶を見つめている。「パパは、アーカムの病院に入院してる。ママは、その付き添い。グランパと、お留守番してた」
彼女は、遠い昔の出来事を語るかのように、淡々と話し始めた。数日前、外が急に騒がしくなったこと。車のクラクションや、人々の叫び声が聞こえてきたこと。祖父が、「サラ、何があっても、絶対にこの家から出るんじゃないぞ」と固く言い聞かせ、様子を見に外へ出ていったこと。そして、それきり、祖父は戻ってこなかったこと。
博は言葉を失ったまま、その小さな語り部の話を聞いていた。十二歳の少女が、たった一人で、この世界の終焉を受け止め、生き延びてきた。その事実が、ずしりと重い塊となって、彼の胸に沈み込んでいく。
孤独への恐怖。それは、彼自身を苛み続けてきた感情だった。しかし今、目の前にいる少女の存在は、彼にそれとは質の違う、新たな感情を芽生えさせていた。責任感。この少女を、守らなければならない。それは論理的な思考から生まれた結論ではなく、もっと根源的な人間としての衝動だった。
彼の生き延びるという目的は、この瞬間から、もはや彼一人のためだけのものではなくなった。




